【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「あの日も、あなたに助けてもらいました…ありがとう」




 ずっと言いたかった言葉を口にしながら、私は目の前に来た一改くんに向かって、深々と頭を下げた。




「…あの日?」




 とまどうような声色で、一改くんが(たず)ね返す。

 私は頭を上げて、胸に手を添えながら説明した。




「2週間ほど前の、雨の日に…私、新しい“コレクション”にされそうになって」


「2週間前…あっ…!あんた、あのときの…どおりで、どこか見覚えがあると思った」




 覚えていてもらえて、よかった。

 私はすこし目を丸くした一改くんにほほえみを返して、視線を落とす。




「“不運”には、なれていました。小さいころから、ずっと…“不運”だとあきらめて、ただ、()えるものだと思っていたんです」


「…?」