【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「やれ、一改!」


「俺はあんたに勝つ!」




 彼から指名を受けた一改くんは、武器をなくしたMalice(マリス)の総長にこぶしを打ちつけて、打ちつけて…。




「が、はっ…」


「はぁっ、はぁっ…」




 肩で息をしながら、地面にたおれるMalice(マリス)の総長を、見下ろした。




「よくやった!」




 一緒に戦っていたValor(ヴァラー)の人たちは、一斉に一改くんのもとへかけ寄る。

 ナイフを蹴飛ばした人なんかは、一改くんの頭をぐしゃぐしゃなでていたけど、「やめろ」と手を振りはらわれていた。

 ホッと胸をなでおろしながら、仲がよさそうだな、と思って一改くんたちを見ていると、倉庫のようすを見ようとしたのか、振り向いた一改くんと目が合う。




「…」




 一改くんは無言で肩にまわされた腕を外して、私のほうに歩いてきた。

 なんとなく…今ならちゃんと、伝えられる気がする。