【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 女の子たちは声を合わせてうなずいたけど、私は一改(いっかい)くんが気になって、つい振り向いてしまう。

 私たちの誘導を終えたValor(ヴァラー)の数人が、一改くんと合流してMalice(マリス)の総長と戦っているけど、あの人の手にはナイフがにぎられたまま。




「さぁ、こっちだ」




 そばに残っていた男子にそっと背中を押されて、私も女の子たちも、倉庫わきへと誘導された。

 そこにはたしかに、数人の男子とともに、“コレクション”にされていた女の子たちが解放されて、集められている。

 そのなかにいたポニーテールの女の子は、私と目が合うと数回まばたきをして、笑顔を向けてくれた。


 私も眉を下げつつ、ほほえみを返したけれど…。

 やっぱり一改くんが心配になって、「ごめんなさい…っ」とValor(ヴァラー)の人にことわりを入れてから、歩いてきた道を小走りでもどる。

 オレンジ色の空の下、先ほどの場所では、私に声をかけてくれたあの男子が、みんなの協力で動きが(ふう)じられたMalice(マリス)の総長に近づき、ナイフを蹴飛(けと)ばしていた。