【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「おまえ…!」




 Malice(マリス)の総長は顔をゆがめて怒り、パンッと私に力強いビンタをした。

 ビリビリと痛むほおを押さえると、タートルネックの胸元をつかまれる。




「オレのコレクションじゃねぇな?どこからまぎれこんだ、Valor(ヴァラー)の女か!?」


「ち、が…っ」




 苦しさに顔をゆがめて答えても、Malice(マリス)の総長は私を離してくれない。

 でも、私の声に(こた)えてくれた人たちは、いたみたいだった。




反町(そりまち)強吾(きょうご)!その子を離せ!」


「チッ…」




 離れたところから聞こえた、知らない男子の声。

 Malice(マリス)の総長は舌打ちをしたあと、私をクルリと反転させて、背後から私のあごをつかんだ。

 背中にはMalice(マリス)の総長の体がぶつかり、私の顔の前にはあの日見た銀色の刃が差し出される。