【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「だれか…たすけて…」


「…!」




 ボソッと、あのポニーテールの子みたいに、ひどくかすれた小さな声が彼女たちのなかから聞こえた。

 顔を向ければ、みんな倉庫を見つめて、唇をはくはくと動かしている。

 でも、そこから出てくる声は、近くにいる私でも聞き取れるか怪しいくらい小さなもの。


 みんな…あの倉庫に閉じ込められていたから、大きい声が出ないんだ…。

 今この場で大声を出して、助けを呼べるのは…私、だけ…。

 私が、助けを求めなきゃ…だれも、私たちのことを…助けてくれない。




「…っ。だれ、か…助けてっ!Malice(マリス)の総長はここにいます!」




 すぅっと息を深く吸って、ふるえる手をにぎりながら、今までの人生で一番、大きな大きな声を出した。

 パッと、女の子たちの目が私に向けられる。