【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「…」




 乱雑(らんざつ)()まったバイクの前で足を止めた一改くんは、私の腕を離したその手で、私のウィッグとウィッグネットをうばいとる。

 パサッと肩に落ちた髪と同様に、私の気持ちもどん底に落ちたようだった。




「おまえ…この前の女、だったんだな。なにを考えてるんだ?」


「っ…そ、の…」




 非難混じりの、冷たい声。

 こんな形で、バレたくなかった…。

 今の状況じゃ、なにを言ったって、一改くんにちゃんとお礼を聞いてもらえない…。


 うつむいたまま唇をキュッと閉じると、倉庫のほうがさわがしくなる。




「出てこい、反町(そりまち)強吾(きょうご)!おまえの悪事、今日で終わらせてやる!」


「…!」