【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―

 前におそわれたときも、茶髪の男子には勝っていたから、一改くんはきっと大丈夫だろう。

 今は一改くんの心配よりも、私自身が逃げることを考えなきゃ、と小走りで倉庫の前から離れようとすると。




「新入り、なに逃げようとしてんだ!おまえもやれ!」


「っ…!」


「よそ見してるよゆう、あんのかよ!」


「ぐぁっ!ク、ソ…が…」




 茶髪の男子に呼び止められてビクッとした私のうしろで、彼は次の瞬間、一改くんの一撃をくらって たおれこんだようだった。

 すこし振り向いて彼らの格闘の結果を見ると、一改くんがこっちを向いて私に近づいてくる。

 私にできたのは、息を飲んで数歩あとずさることだけ。


 一改くんに腕をつかまれても、とっさに声を発することができず、倉庫わきに私を引っぱっていく一改くんの背中から視線を落とし、唇をかんだ。