【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 一改くんの言葉の続きも気になったけれど、彼のさらにうしろに、倉庫のなかをにらみながら外に出てきた茶髪の男子が見えて、息を飲んだ。

 どうしよう…っ。

 逃げようとしてたこと、気づかれちゃう…!


 腕を引いても一改くんの手はびくともせず、あせっているうちに、茶髪の男子がこっちに気づく。

 一改くんのうしろ姿を見てニヤリと笑い、こぶしをかまえながらこっちに走って来る彼を見た私は、思わず一改くんの腕を両手で引っぱった。




「あぶない!」


「は…っ?」




 うしろにたおれる いきおいで、体重をかけて全力で引っぱったからか、今度はグラリとかたむいた一改くんが、私のほうへたおれてくる。


「わ…っ」


 2人一緒になって地面にたおれたせいで、地面と衝突(しょうとつ)した背中がとんでもなく痛かった。