【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―

 でも、一改くんが私に“話”って…なんだろう…?

 Malice(マリス)の一員だと思われてる今の状況じゃ、私に話せることなんて…。




「…わ、ボク、Malice(マリス)、やめますから…っ」


「…!待て!」




 今の私で伝えたい唯一のことを口にして、私はバッと、倉庫の外に走った。

 Valor(ヴァラー)抗争(こうそう)中で、だれもこちらに意識を向けていない今のうちに逃げてしまおうと、必死に振った腕をパシッとつかまれる。




「っ…は、離して…」




 力の差で、一改くんを振り切って走り続けることができなくて、私は眉を下げながら振り向いた。

 力強い一改くんの瞳と視線が(まじ)わると、彼はすこし目を見開く。




「おまえ…?」