【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 いつのまにか、私の前には一改(いっかい)くんが立っていて、私に向かって振り上げられたこぶしが片手で受け止められている。




「一改…早く済ませろよ」




 私にせまってきたValor(ヴァラー)の男子は、コクリとうなずいて手を引いた。

 こっそり入ってきた彼らは私たちの前を通過して、壁ぎわで拘束(こうそく)されている女の子たちのもとへかけ寄る。

 “コレクション”の子たちを…助けに来た、のかな…?




「…やっぱりおまえは、さわがないんだな」




 数人ずつで女の子の手錠(てじょう)を順番にこわしているのを見て、ホッと肩を落としていると、目の前の一改くんに声をかけられた。

 私はハッと我に返って、一改くんの顔を見る。

 夜道で話したときよりも冷たいけど、一改くんをおそいに行ったときよりは、その視線にトゲがないように感じた。