【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「わかった。これから、ここを抜けたいって話してくるところだから…それが終わったら、通報するね」


「バカね、抜けたいって言って抜けさせてくれるようなところじゃないわ。あなたは今すぐここを離れて、もう一生ここに来なければいいの」


「え…」


「その格好(かっこう)をしなければ、あいつらに見つかることもないでしょ」




 ひどくかすれた声でも、つかれがにじんだ暗い表情でも、彼女は私よりしっかりしているらしい。




「そ、そっか…わかった」




 コクリとうなずくと、彼女は「あいつらに気づかれないように。行って」と私にささやく。

 私はもう一度うなずきを返して、周囲に視線を走らせながら そっと立ち上がった。