【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「あなた、女の子でしょ?」


「っ…!」




 こんな距離でも聞き取りづらいくらいかすれた、ひどい声。…よりも、その言葉にドキッとして顔がこわばる。

 でも彼女は、私の目を見つめたまま続けた。




「あなたまで捕まる前に、こんなところ、早く離れて。そして…私たちを助けて」


「え…?」




 私が女だって、バラす気はない…の?




「…でも、助けるって、どうしたら…」




 周りの男子たちに聞かれないよう、私もささやくように言葉を返す。




「安全なところに着いてから、匿名(とくめい)で通報してくれればいい」




 通報…それならたしかに、私でもできる。

 私はうなずいて、彼女の目を見つめ返した。