【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 Malice(マリス)を抜けたいという話は、やっぱりあの短い茶髪の男子に話せばいいかな…?

 彼を探して倉庫のなかをキョロキョロ見まわしていると、壁ぎわにいるコレクションの女の子たち…そのなかでも、ポニーテールのあの子とまた目が合った。

 彼女とはよく目が合うな、と思いながら会釈(えしゃく)をして視線をそらそうとすれば、彼女が口をパクパクと動かす。


 私に…なにか言ってる?

 不良男子たちの大きな話し声は耳に入ってくるけど、女の子の声はひとつも聞こえない。

 彼女の声が聞こえる場所まで近づこうと思って、耳を澄ませながら壁のほうへ歩き出すと、なにも聞き取れないまま彼女の目の前まで来てしまった。




「…あの、なにか…?」




 あの茶髪の男子も“近づくのはいい”って言ってたし、べつに大丈夫だよね、と周りの人がこっちに注目してないのを確認してから、彼女の前にしゃがむ。

 センター分けの前髪に、ポニーテール。もとは活発そうな容姿の女の子は、パク、とまた口を動かした。