【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「私の家、ここです」


「…そうか。じゃあな。しばらくは、1人で外を出歩くな」




 あっさりとあいさつをして、来た道をもどろうとする一改くんの背中に、「あの…っ」と声をかけた。

 一改くんはジャリ、と小さな音を立てて足を止め、振り返る。




「…なんだ?」


「あ…ありがとう、ございます」


「あぁ」




 うなずいて、そっけなく顔をそらした一改くんの背中が離れていくのを、私は家の前からじっと見つめていた。


 お礼、言えた…。

 でも、私が本当に伝えたい“ありがとう”は…。