【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 問い返すと、一改くんはあごをクイッと動かして、“横に来い”と伝える。

 私は唇をキュッと閉じてから、ゆっくりと一改くんの横にならんだ。

 一改くんは私を横目に見ると、ふたたび歩き出す。




「…俺には、クズな兄貴がいるんだ。兄貴は今まで、いろんな悪事をしてきた」




 すこし、トーンを落とした声が、2つの足音に混じって、となりから聞こえる。

 一改くんの“兄貴”…って、Malice(マリス)の総長、だよね…?




「でも、俺は…さからっても兄貴に勝てるわけないって思いこんで、今まで、それを全部、見て見ないフリしてきた」


「…私は、助けてくれる人なんていないのが、あたりまえだと思ってました」




 私の気持ちも明かすと、一改くんは横目に私を見た。

 その視線を受け止めながら、しずかに尋ねる。