【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「家、どっちだ?」


「左…です」


「そうか」




 一改くんは左側の道に顔を向けて歩き出す。

 白いロングTシャツにおおわれた背中を見つめながらうしろをついていくと、10歩ほど進んだ先で、一改くんが振り返った。




「横に来い。うしろにいられると守りにくい」


「…どうして、あなたは…守ってくれるんですか?」




 夜の闇が顔を隠してくれることを願いながら、おずおずと一改くんの顔を見て(たず)ねる。

 一改くんは視線をそらして、私の問いに答えてくれた。




「それが、今俺がいるところの活動だからだ。それに…今まで見捨ててきた分、これからは絶対に全員助けるって決めた」


「…今まで?」