【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―

 両サイドから肩と腕をつかまれて、近くの建物に体を押しつけられる。

 冷たい外壁にふれたほおや、セーラー服の胸に水の感触がしみこんでくるのはきっと、たった今カサを落としてしまったから、というだけの理由じゃない。




「オレにさからう気が起きないように…おまえの体に、だれが主か(きざ)みこんでやる。いい子にしていたら、背中の傷はひとつで済むぜ」




 目の前に、銀色の刃がひらひらと差し出された。

 これは、ナイフ…。

 …ナイフ?


 いつもどおり、“不運”が過ぎ去るときを待って、ぼんやりとしていた意識が、ハッと目覚めたような感覚になる。

 “背中の傷”?

 私、これから…背中を切られるの…!?