【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



『おまえ、本当は兄貴がやってること、おかしいと思ってるんだろ?』


『うちに来いよ。おまえはMalice(マリス)(くさ)っていって いいやつじゃない』




 まだMalice(マリス)にいたころ、電話の相手…Valor(ヴァラー)の総長からしつこくかけられた声が頭のなかによみがえる。




〈――ちったぁうちになじむ努力をだなぁ〉


「…用ができたから切る」


〈はぁ!?おい、一改!〉




 スマホを耳から離して通話を切ったあと、コンビニに入っていったヤツを追って、俺も早足でコンビニに入った。




「らっしゃいませー」




 やる気のない店員の声を聞きながら店内を見まわせば、雑誌コーナーの前を通ってトイレに入ったヤツのうしろ姿が見える。




「…」




 俺は雑誌だなの前に移動して、てきとうに誌面をながめているフリをしながら、ヤツが出てくるのを待った。