【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



 しゃがんで、茶髪の男子の体にふれると、うめき声が返ってくる。

 体を起こそうとする彼に手を貸して、チラリと黒髪の男の子を見れば、私の恩人(おんじん)は数秒眉をひそめて私と視線を合わせてから、私たちに背中を向けた。




「てめぇ、一改(いっかい)…!覚えてやがれ…!」




 一改…そうだ、Malice(マリス)の総長もそう呼んでた。

 茶髪の男子が恩人の彼に向かって吐き捨てた言葉を聞き、私は“一改くん”、と名前を記憶しながら、遠ざかっていく彼の背中を見つめる。

 茶髪の男子に肩を貸し、もう1人の男子も起こして、バイクを手で押しながらMalice(マリス)の倉庫にもどってきたのは、それから十数分あとのこと。


 バイクを倉庫のわきに停めて、茶髪の男子に肩を貸しながら倉庫のなかへもどると、横から視線を感じた。

 一緒に帰ってきた彼らを地面に座らせながら、倉庫のすみを見ると、ポニーテールの女の子が じっと私を見ていることに気づく。

 なんだろう…?と思いながら会釈(えしゃく)を返して、茶髪の男子に気になっていたことを(たず)ねた。