【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「え…?」




 あのときの、男の子…!?

 目を見開いて、数歩先にいる彼のととのった顔をまじまじと見つめると、形のいい赤い唇が開かれた。




「またちょっかいをかけに来たのか。俺がおまえらにやられるとでも?」


「うるせぇ!てめぇだけは絶対ぶち殺す!」


「はっ…やれるもんならやってみろ」




 冷笑であしらう顔を見つめながら、どうして、と とまどう。

 あのときはMalice(マリス)の総長と一緒にいたから、Maliceの人だと思ったのに…どうして、Maliceと敵対してるValor(ヴァラー)の倉庫から…?

 もしかしてあの男の子じゃないのかな、と一瞬浮かんだ考えは、彼が腕まくりをして見えた、左腕にある赤い傷痕(きずあと)を目にして吹き飛んだ。