【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「行くぞ、新入り」


「え…?」




 私に声をかけて、3人は凶悪な顔で彼の行き先を追うように歩き出した。

 もしかして…あの男子をねらってる…?

 どうしよう、私、ケンカとかできないのに…。


 それに、1人をかこむ“複数人”の一員になんて、なりたくない…。

 眉を下げながらも、あの男の子に会うまでMalice(マリス)から逃げるわけにはいかない私は、3人のうしろに遅れてついていく。

 倉庫を離れて人気(ひとけ)のない路地に入った男子の背中に追いついたのは、しばらく彼をつけ回したあとのことだった。




「おい」


「…」




 トゲのあるその一声を聞いただけで、私なら“あぁ、また不運が降ってきた”と思うだろう。

 足を止めて振り返った黒髪の彼は、切れ長の落ちついた目をまっすぐこちらに向けた。

 ――その顔を見て、目に焼き付いた姿が彼に(かさ)なる。