【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―



「総長だ…!」




 “総長”って…あの人?

 緊張(きんちょう)して倉庫のなかに視線を走らせれば、ロフトのような2階部分に、あの日見た体格のいい男の人が立っていた。




「おい、Valor(ヴァラー)をちょっくら痛めつけてこい」


「「うす!」」




 Valor(ヴァラー)…?

 なにかの名前、かな…?と考えていたら、不意に“総長”と目が合ったような気がして、呼吸が止まる。




「…そこの女は?」


「…っ」




 私…!?




「し、新入りっす。顔も声も女みてぇっすけど、胸ないんで男っすよ」




 まちがいなく“総長”に視線を向けられて、心臓が()めつけられるように痛むのを感じていたら、茶髪の男子が声をあげた。