【短】谷底のカスミソウ ―Valor VS Malice―

 Malice(マリス)に入りたいわけじゃないけど、あの男の子に会いに来たわけだから、倉庫に入れてもらえるなら…。

 迷いながら彼らについて いっているあいだに、遠く感じた倉庫の入り口に着いて、たくさんの不良が集まっている光景が目に入る。




「んぁ?なんだそいつ?」


「新入り、女みてぇな声してんだぜ」


「はっ、顔も女みてーじゃん?」


「たしかにな。おまえ、女だったりして?」




 倉庫のなかにいた1人の不良に声をかけられて、茶髪の男子は笑いながら私の胸にふれてきた。

 思わずビクッとして息をつめると、彼は「はっ」と笑う。




「まな板。こりゃ男だわ」




 トン、とノックするように指の背で胸をたたかれて、ホッとひそかに息を吐き出した。

 なべシャツ、役に立ってよかった…。

 笑い合う不良男子たちから目をそらして倉庫のすみを見ると、壁にある突起(とっき)手錠(てじょう)で結ばれて床に座りこんでいる女の子が、何人もいることに気づく。