はーい、私のくだらない心境は置いておいて次の日。
私は、登校中に見慣れた背格好の人物と曲がり角でぶつかった。
え? 少女漫画???
そしてそして、この展開はもしかして──。
「いたた…、ごめんね、大丈夫だったかな?」
「明月せんぱ……じゃなかった、悠陽先輩の方でしたか」
申し訳なさそうに手を合わせるその人の顔は、明月先輩そっくりだ。でも違う。明月先輩じゃない。
昨日、校庭を走り回っていた、某サッカー部の悠陽先輩。
まさか、こんなところで会うとは。
……どうせなら明月先輩とぶつかりたかった。
「あれ? 君がうちの弟に告白し続けているって言うヒマリちゃんかな?」
「あ、私のことご存じだったんですね」
「うんうん、実は2年の間でも可愛いって噂になってたんだ」
悠陽先輩。名実共に校内1のモテ男子で、常に女子たちからの告白が耐えない。
男女問わず惹きつける、チャラさとはまた別の明るい性格。欠点も何ひとつないし、もちろん顔もいい。
うーん、そりゃあモテる。
彼は、頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗を地で行く、明月先輩の双子の兄だ。
幼い頃から、身近にいた悠陽先輩と自分を比べてきたから、明月先輩は自己肯定感も低いのだろう。
いや、これは完全に比べた相手が悪いでしょ…。
考えに浸る私をよそに、悠陽先輩は楽しそうに話す。……この人、ほんとよく喋るな。
「明月もね、家では良く君のことを──」
「っ悠陽! 日葵ちゃんに何してんだよ!?」
「うぁ、あ、明月先輩、おはようございます」
急に肩を強く引かれて、ぐらりと揺れる。
いつの間にか現れた明月先輩が、私の視界いっぱいに映った。
私の肩を抱き寄せて、見たことのない表情で大声を出す明月先輩。
少しくらくらするのは、さっき、随分と強引に引っ張られたからなのか、それとも先輩がこんなに近くにいるからなのか。
「あははっ、明月の大事なヒマリちゃんだからね。疑われるようなことはしてないけど?」
「その言葉が1番信じられないって言ってんだ!」
明月先輩を1番近くで見てきた悠陽先輩の、“明月の大事なヒマリちゃん”発言…?
そして、それを肯定はしていないものの、否定もしない明月先輩。
これはこれは……。期待しちゃいますよ、私。
とりあえず本日の元凶ランキング第1位の悠陽先輩に、感謝の舞を捧げたいと思う。



