月曜日。大好きな…いや、大好きだった人の名前とお揃いの漢字が入った曜日。
私が1週間近く、家から出ていないことに呆れた様子のお母さんに、無理やり家の外に引きずり出されてしまった。
お母さんが買い物から帰ってくるまでの2時間ほど、どこかで時間を潰せ、とも言われた。けど、…いやどうしろと。
夏だぞ、生命に関わるぞ。おかしいでしょうが、この状況。
頭の中ではそう愚痴を言いまくりながらも、私の足は自然と学校へと向かっていた。
電車の中は涼しいし、空き教室も図書室も冷房はついているだろうし。
などと言った賢いことは微塵も考えていなかった。気がついたら学校の最寄り着いてたんだから仕方ないじゃん。
たぶん、心のどこかでまだ先輩を探していたんじゃないかと思う。
「はぁー、あっつ…」
太陽の強い光を反射して無駄にきらきら輝く校門に顔をしかめて、そのまま通過する。
睨んでごめんね、校門。反射が眩しくて、通行人の視界に悪影響を与えようとする君が悪いのさ。
さすが私立と言うべきか、これまた無駄に長いフリースペース坂道ゾーンを歩き進めると、ようやく私の体は木陰にありついた。…疲れた。
ここはグラウンドが1番よく見える場所だから、夏休み中でも人が多い。
それにしても、これだけの人口密度。どっかの部の試合でもやっているのかな。
「きゃー! 悠陽くん、かっこいい〜!!」
「あ、あの人めっちゃイケメン! この学校の人かな?」
……どうやらサッカー部が使っているらしい。それも他校との練習試合。
私、女子の黄色い歓声って苦手だし、帰ろうかな。
そう思って退散しようとした時、私は見慣れた横顔を見つけた。
この場にいる誰よりも静かに、そして寂しそうに、羨ましそうに、グラウンド上の1点を見つめる人。
いるかなとは思っていたが探すつもりもなかったのに、私が見つけてしまう人。
まだ過去形には出来そうにない、私の好きな人。
「──明月先輩…」
小さな声だったはずだけど、その人は私に気づく。
久しぶりに私に向けられたその眼差しは、喧嘩した日に見たものより、少し疲れているように映った。
「日葵ちゃん……。悠陽の応援に来たの?」
「違います」
「そっか。日葵ちゃんと悠陽、お似合いだと思うけど」
そして、相変わらずの勘違い。
今まで気づかなかったけれど、明月先輩は相当頑固なようだ。
初めて知った先輩の新たな一面に、心臓が音を立てる。
もう諦めた恋のはずなのに。ちゃんと、自分で終わらせようと思ったのに。
先輩の優しさが滲み出た声を聞くと。自信のなさが見て取れる瞳と目が合うと。
どうしても、どうしようもなく、好きだと思ってしまう。
「私は明月先輩が好きだって何度も何度も、言ってるじゃないですか」
「日葵ちゃんの“日葵”って、ひまわりだったよね? ひまわりの花は、太陽の花なんだってね」
日葵──ひまわりが太陽の花だから、“日葵”と悠“陽”はお似合いだと、先輩はそう言いたいのだろうか。
私はそんなこと考えてもみなかったけど、確かに普通の人ならそう考えるんだろうな。
今まで違和感は感じていたけど、これで確信した。
やっぱり明月先輩は私のこと、何も知らない。
日陰にいる先輩の腕を引っ張って、遠くの日向へ連れていく。
眩しいし、暑いけれど、おかげで周囲には誰も人がいない。
太陽側に背を向けてから、先輩の顔を見つめて。大きく息を吸ってから、私は真実を告げた。
「……私の、下の名前。日葵じゃないですよ」
「え?」
目を丸くして驚いた先輩。
先輩のその表情、すごく好きですよ。
私が1週間近く、家から出ていないことに呆れた様子のお母さんに、無理やり家の外に引きずり出されてしまった。
お母さんが買い物から帰ってくるまでの2時間ほど、どこかで時間を潰せ、とも言われた。けど、…いやどうしろと。
夏だぞ、生命に関わるぞ。おかしいでしょうが、この状況。
頭の中ではそう愚痴を言いまくりながらも、私の足は自然と学校へと向かっていた。
電車の中は涼しいし、空き教室も図書室も冷房はついているだろうし。
などと言った賢いことは微塵も考えていなかった。気がついたら学校の最寄り着いてたんだから仕方ないじゃん。
たぶん、心のどこかでまだ先輩を探していたんじゃないかと思う。
「はぁー、あっつ…」
太陽の強い光を反射して無駄にきらきら輝く校門に顔をしかめて、そのまま通過する。
睨んでごめんね、校門。反射が眩しくて、通行人の視界に悪影響を与えようとする君が悪いのさ。
さすが私立と言うべきか、これまた無駄に長いフリースペース坂道ゾーンを歩き進めると、ようやく私の体は木陰にありついた。…疲れた。
ここはグラウンドが1番よく見える場所だから、夏休み中でも人が多い。
それにしても、これだけの人口密度。どっかの部の試合でもやっているのかな。
「きゃー! 悠陽くん、かっこいい〜!!」
「あ、あの人めっちゃイケメン! この学校の人かな?」
……どうやらサッカー部が使っているらしい。それも他校との練習試合。
私、女子の黄色い歓声って苦手だし、帰ろうかな。
そう思って退散しようとした時、私は見慣れた横顔を見つけた。
この場にいる誰よりも静かに、そして寂しそうに、羨ましそうに、グラウンド上の1点を見つめる人。
いるかなとは思っていたが探すつもりもなかったのに、私が見つけてしまう人。
まだ過去形には出来そうにない、私の好きな人。
「──明月先輩…」
小さな声だったはずだけど、その人は私に気づく。
久しぶりに私に向けられたその眼差しは、喧嘩した日に見たものより、少し疲れているように映った。
「日葵ちゃん……。悠陽の応援に来たの?」
「違います」
「そっか。日葵ちゃんと悠陽、お似合いだと思うけど」
そして、相変わらずの勘違い。
今まで気づかなかったけれど、明月先輩は相当頑固なようだ。
初めて知った先輩の新たな一面に、心臓が音を立てる。
もう諦めた恋のはずなのに。ちゃんと、自分で終わらせようと思ったのに。
先輩の優しさが滲み出た声を聞くと。自信のなさが見て取れる瞳と目が合うと。
どうしても、どうしようもなく、好きだと思ってしまう。
「私は明月先輩が好きだって何度も何度も、言ってるじゃないですか」
「日葵ちゃんの“日葵”って、ひまわりだったよね? ひまわりの花は、太陽の花なんだってね」
日葵──ひまわりが太陽の花だから、“日葵”と悠“陽”はお似合いだと、先輩はそう言いたいのだろうか。
私はそんなこと考えてもみなかったけど、確かに普通の人ならそう考えるんだろうな。
今まで違和感は感じていたけど、これで確信した。
やっぱり明月先輩は私のこと、何も知らない。
日陰にいる先輩の腕を引っ張って、遠くの日向へ連れていく。
眩しいし、暑いけれど、おかげで周囲には誰も人がいない。
太陽側に背を向けてから、先輩の顔を見つめて。大きく息を吸ってから、私は真実を告げた。
「……私の、下の名前。日葵じゃないですよ」
「え?」
目を丸くして驚いた先輩。
先輩のその表情、すごく好きですよ。



