「え? 今日、明月先輩いないんですか?」

 そしてまた、翌日の昼休み。
 さすがに今日こそはいるだろう、と意気込んで教室に凸らせていただいた…が、明月先輩はいなかった。
  
「うん。さっきの体育の授業で僕のこと庇ってくれたんだけど、そのせいで怪我しちゃって…」
「……そうだったんですか」 

 昨日とは違い、悠陽先輩すらいなかったので(いても困るけど)、戸惑うしかないよね。
 そんな私を見かねてか、ドアの1番近くにいた先輩Bが教えてくれた。

 あら、そろそろ私も顔覚えられてきたのかしら。顔パスで先輩の位置を教えてもらえるなんて、ほんとありがたいわぁ。

 …にしても。クラスメイト庇って怪我する先輩、さすがにかっこよすぎるな!??

「あの…、明月くん、まだ保健室にいるはずだから」
「保健室ですね、了解です」
「明月くんのお弁当、机に置いてあったから、これも持って行ってあげて」 
「はい! ありがとうございます、行ってきます!!」

 とまぁ、こんな具合で明月先輩のお弁当を渡されまして。てくてく廊下を歩いている訳ですが。
 
 
 ね、これさぁ。行き先が保健室なのはさておき。
 
 お弁当持っていくなんて、なんだか奥さんみたいじゃない?
 目標の彼女さん通り越しちゃったよ、どうしようね。

「失礼しまーす、明月先輩のお弁当届けにきました」 
「……日葵ちゃん」

 ギリギリ騒音にならないくらい、勢いよく扉を開く。
 先輩の頬には、似つかわしくない真っ白なガーゼが貼られていた。
 
「あらあら。良かったわね、彼女さんがお迎えに来てくれて」
「えっ、あの私、そんなんじゃなくて」
「はい。先生、手当てしていただき、本当にありがとうございました」
「いいえ、わたしはこれが仕事だもの」

 きっかり45度のお辞儀をして、明月先輩は颯爽と保健室を後にする。
 保健室のおばちゃん先生が私を彼女と呼んだけれど、それにも明月先輩は特に何の反応もしなかった。
 
 あれ? もしかして、私って明月先輩の彼女さんだったりする?
 いや、そんなはずはないよな…。
 

 さすが先輩、礼儀正しい! 大好き!!って愛を叫びたい気持ちと、なんかすごい誤解起きてない!?って焦る気持ちがごちゃ混ぜ状態だ。
 お願いだから、ツッコミする時間くらいはくださいな。

「…日葵ちゃんは俺のこと、迎えに来てくれるんだね」  
「もちろんですよ。急にどうしたんですか?」
「ううん、何でもないよ」

 廊下に出て、少ししてから明月先輩は唐突にそんなことを言い出した。
 今、このタイミングで、なんでそんなことを言ったのかは分からないけど。

 
 でも、いつかは聞ける──教えてくれる気がするんだよね。
 
 悠陽先輩の思考回路は解読不可能でも、明月先輩のことは私なりに見てきたつもりだから分かる。

 
 いつも、ものすごく考えてから発せられる明月先輩の言葉。

 それって、匂わせとか思わせぶりとか、そんなものだったことは一切なくて。
 全部、誰かに聞いてもらうためのものなんだ。
 
「それより、早くお昼食べよっか」
「は、はいっ!」

 いつもより、ちょっぴり強引な先輩に手を引かれた午後1時。

 さりげなく繋がれた手に、私の心臓は鳴りっぱなしで。
 やっぱり、最近の明月先輩はおかしい気がする。