月夜に吠える、君の名を 《続》

夜は長く、そして寒かった。
牢屋の石床は底冷えし、紗羅と健は互いの体温を頼りに身を寄せ合った。
外から聞こえるのは、風の音と、時折通り過ぎる見張りの足音だけ。

やがて、薄い朝の光が窓から差し込み始めた。
健が目を開け、重く息を吐く。
『……来よったな』
その声と同時に、鉄格子の向こうに村人たちが現れた。
皆の手には槍や棒が握られている。
まるで今にも怪物を打ち倒すような構えだ。

《化けオオカミめ……今日こそ裁きを受けてもらう。》
年老いた村長が冷たい声で言い放つ。
あなたは思わず一歩前に出た。
「待って!健はもう呪われてなんかいません!今はただの人間なんです!」

しかし、村人たちはざわめき、互いに首を振るばかり。
【化け物に騙されてるんや】
〈見た目が戻ってても、中身は同じや〉
疑いの目は、鋼のように硬い。

健は鉄格子に手をかけ、真っ直ぐ村長を見た。
『嘘やない。俺はもう人間や。証拠見せろ言うても、何見せたら信じてくれるんや。』
その必死な声も、村人たちの耳には届かない。

村長が無情に告げた。
《日が沈む前に“断罪の儀”を行う。逃げ場はない》

足音が遠ざかると、牢屋の中には再び静寂が戻った。
紗羅は健の手を握り、囁く。
「……日が沈む前に、絶対逃げよう」

健は小さく笑った。
『やっぱりな。紗羅は、そう言うと思ったわ。』

そして二人は、鉄格子の先にある自由を見据えた。
残された時間は、あとわずか……。