── コンビニエンスストア
「あの、凌久さま」
「あ~? なに~?」
「あ~? なに~?」じゃなくてコンビニスイーツ全制覇するのはやめてくれないかな、さすがに。しかも飲み物ジュースばっかだし、しれっと菓子パンも買おうとしてるし。いくらなんでも糖質多々すぎるでしょこれは。体調崩すて、本気で。
「凌久さま、カゴの中が甘いものばかりでは?」
「お前とシェアするし~」
いや、食べれんて。シェアしたとて食べきれんて、この量は。まあ凌久は食べても食べても太らないし、大食いではあるから食べきれないってことはないだろうけども、そもそも太るて、あなたと違って太るて、わたしは。
「ありがとうございます」
全然ありがたくはないんだけど、『シェアしてやるよ、優しいだろ? 嬉しいだろ? 喜べよ、感謝しろ』って顔に書いてあるクソお坊っちゃまにお礼を言わないと『あ? なに嬉しくねぇの? 俺の好意が受けとれねぇの? お前さぁ、マジで何様? 萎えるわー、信じらんねえ』とかぐちぐち言われるのがオチ。
「つーか瑛斗、お前のカゴん中やばくね~?」
凌久も糖質多々すぎもやばいけど瑛斗は塩分多々すぎなんじゃないそれ。なんでこうもこの2人は極端なのかなぁ、もっとこうバランスよく~とか考えない? ま、バカほど強い人って何かが欠如してるのが当たり前って感じではあるし、毎日こんな食生活してるわけじゃないから良しとしよう。バカほど強い人にはこれからも率先して頑張ってもらわないといけないしね、バカほど強い人には。
「そうか? 凌久のほうが胃もたれ起こしそうだけどね」
「余裕っしょ」
「いやぁ大変だね、楓花」
「ははっ、いえそんな」
ええ、大変です、とても。凌久の大食いに付き合うのほんっと大変なの! 一時的にだけどめっちゃ体重増えるし体が重いし、それで「なんかお前動き鈍くね? なに、腹痛ぇの? うんこ?」なんて言われるからね。手がびょーんっと伸びて殴っちゃいそうだよ?
「大変なのは俺ね~? ほら、色々と食わしてやりてぇじゃん? 女ってスイーツとか好きだろ? それに付き合ってる俺の身にもなってほしいわ~」
なにをいってるんだ? おまえは。
「ははっ、いやぁ驚いた。こりゃ参ったねえ? 楓花。凌久、あまり楓花の胃をいじめないでやってくれ」
わたしのお腹に手を伸ばしてきた瑛斗、その手をすかさず掴んだのは凌久だった。
「しれっと触ろうとしてんじゃねぇよカス」
「カスとは心外だなぁ、クズにカスと言われても困っちゃうよ」
なんて言いながらわたしに微笑んでくる瑛斗に無表情を極めるわたし。ぶっちゃけ『もっと言ってやってくれ、もっとけちょんけちょんにしてやってくれ!』と瑛斗を応援したいところなんだけれども、わたしはそれを許されない立場にある。
「なにお前、瑛斗のほうがいいってわけ?」
「え?」
「お前さ、結構瑛斗に懐いてるよな」
懐いてるとは? 普通でしょ、友達なんだし。
「いえ、そんなことは」
「困った時は小野田くーんってやつ~? はっ、お前そんなキャラだっけか? そうやって男に縋んのって弱ぇ女がすることだろ。やめろ、お前誰の護衛やってんだよ、示しがつかねぇだろうが」
えぇ、なんでいきなり怒られるのぉ? そもそもなんで怒ってるの?
「おい凌久、そんな言い方はないだろ」
「あ? んだよ、別に瑛斗には関係なくね?」
「関係あるだろ、楓花のことだからね」
「はっ、なんっだそれ」
睨み合ってバチバチと火花を散らしているバカ強な2人に若干臆するわたし。いやぁ、だってさぁ、さすがにやばいよね~。わたしじゃこのバカつよコンビ止めらんないよ?
「凌久さま小野田君、お止めください」
凌久と瑛斗の間に入って、体格のいい高身長の男達にサンドされるわたしの身にもなってくださいませ~。普通に怖いでしょ、こんなの。ほら、周りのお客さんも一触即発なムードにハラハラドキドキしてますよ、なんなら怯えてますよ、まだ中学生なんですけどね、こんなんでも。
「楓花、危ないから下がっていてくれ」
「あ? 瑛斗さぁ、なーんか最近調子に乗ってねえ? なに、イキってんの? やめろよ厨二かぁ? はっずいわ~」
「凌久さま、ご友人に向かってそのような発言はお控えください」
「あ? お前どっちの味方なわけ?」
「わたしは凌久さまと、凌久さまの大切なものの味方です」
「楓花、そうやって凌久を中心に考えるのはよくないよ。君には君の人生があるんだから」
ぎゃーーもうっ! 丸く収めようとしたのに余計なこと言わないでよ瑛斗ぉ! 瑛斗ってそういうところあるよねー! ちょっとそれ悪いクセじゃないかなー! いや、悪いとも言いきれないか、むしろいいところなのかな?
「おい瑛斗、表出ろ」
「ははっ、いつの時代だよそれ」
「あのっ!!!!」
こんなに声を張り上げたのは初めてで、わたしってこんなに大きな声出るんだって正直自分でも驚いている。けれど、わたしなんかよりも何十倍驚いているのがこの2人、凌久と瑛斗である。もはや驚いているというより動揺に近い。
「……あの、喧嘩はお止めください。他の方にご迷惑をおかけすることになりますので……わたしごときが偉そうに申し訳ございません」
「いや、ま、まあ、楓花がそこまで言うなら……な、やめてやるか瑛斗」
「あ、あぁうん。そうだね、止めておこうか凌久。巻き込んですまない、楓花」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
軽く頭を下げて真顔で2人を見上げると、凌久と瑛斗はばつが悪そうな表情をしながら妙に仲良くコンビニで買い物を済ませたのであった──。



