「どーせ休みにすんなら最初っからそうしろよなぁ、あのヘビスモババア」
「よせ、その呼び方は。あんな人でも俺達のボスだ」
「てか瑛斗ってフォローしてるようで一番貶してるよねー、ね? 楓花」
「ええ、まあ……そうですね」
「ははっ、それはいけないね。気をつけるよ」

 あたしらは同期で何だかんだいつだって一緒にいる。めちゃくちゃ波長が合うってわけでもないし、なんなら南雲と小野田は仲いいんだか悪いんだかって感じだけど、あたしらの代で幻影隊に配属されたのがこのメンツだったから、必然的にこうなるよね。ぶっちゃけ最初はどうなることやらって思ってたけど──。


 S学に入学して幻影隊に配属された初日、メンツが揃うまで待機の指示を受け、机が4つしか並べられていない教室で柄にもなく少しそわそわしていた。そこにやってきたのは体格のいい派手めな男子。

「どうも」
「どうも、君ひとり?」
「ああ、みたい」
「そうか。俺は小野田瑛斗、よろしく頼むよ」
「手塚茉由、こちらこそよろしく」

 見た目とは裏腹に物腰が柔らかくてギャップすご。

「席が4つあるということは、後2人来るって解釈でいいのかな?」
「なんじゃなーい?」
「そうか、じゃあ待つとしようか」

 他愛もない会話をしながら来るであろう同期を待っていると教室の扉がそっと控えめにスライドして、あたし達は出入り口のほうへ視線を向けた。そこに立っていたのは大人しそうな普通の女子と派手で如何に俺様ボンボンて感じのオーラが漂っている男子。

「おはようございます。遅くなって申し訳ありません」

 ここまで露骨な雰囲気……というより、隠しきれない隠そうともしていないオーラ的なもので大抵のことは察する。奥ゆかしさのあるこの女子は隣のボンボンのお付きなんだろうな。まじでこんな人達っているんだなぁ、あたしとは別の世界で生きてる人間でしょ。

「あたしらがちょっと早かっただけで遅刻ってわけでもないよー」
「座りなよ」
「ありがとうございます」

 微笑みながら小野田の隣に座ろうとした女子になぜか怒り始めた如何にも俺様な男子に目が点になるあたしら。

「俺に席選ばせねぇとかマジかお前、何様だよ。ないわ~、ほんっと信じらんねえ」
「申し訳ありません」

 えぇ、引くわー。君がそんな性格だから小野田と喧嘩にならないよう間に入ろうとしたんじゃないのその子。

「お前はそっちに座れ。あ、つーかスマホ忘れたわ、取ってきてくんね?」
「承知いたしました」

 顔色一つ変えず指示に従い教室を去る様に呆然としてしまう。かなり失礼なのは承知のうえだし、あたしだって人様のことをとやかく言える容姿はしてないけど、良くも悪くもめちゃくちゃ普通な子なのに、とにかく立ち振る舞いが綺麗で姿勢が美しく、一つ一つの動作がゆっくりで丁寧。言葉遣いや指先、物の扱いにも心を配り、周りの状況を把握しながら落ち着いた振る舞いができているあの子ってまじでタメ? 絶対サバ読んでるでしょ、3つ4つくらい年上でしょあれ。
 で、お付きがいなくなった途端、さらに不機嫌オーラを漂わせているボンボン。
 なに? そんな逆鱗に触れるようなことあたしらしてなくない? ものすんごい冷めた瞳で睨みつけられてるけれども。

「君って南雲家の?」
「あ?」
「この界隈じゃ有名だろ? 凌久って南雲凌久なんじゃないのか?」

 ああ、やっぱ? そんな気がしてたんだよねー。ビジュ爆発してるって噂ってまじだったんだー。たしかにビジュはいい、ビジュ“は”。

「だったらなんだ」
「いや? だからと言ってどうってことはないよ。俺は小野田瑛斗、よろしく」

 いやぁ、君ら馬が合わないのでしょー。面倒くさそうだなぁ、このメンツ。まあ面白そうだからいいけどー。

「俺はおめぇらと馴れ合うつもりはねぇのよ、残念ながら。つーかあの女に手ぇ出すなよ、男女問わず死にたくなければな」

 ああ、なるほど? そういうことね。絶賛片思い中の拗らせ俺様御曹司ってやつー? なにそれ、めっちゃ面白そうなんですけどー。

「へえ、ただのお付きかなって思ったけど違うんだー? 意外だね」
「あ?」
「だって良くも悪くも普通な子じゃん。君ならもっと他にいるでしょ」
「あの子は君の恋人か?」

 周りにイエスマンしかいない環境で育ったであろう南雲、あたしらのあっけらかんとした態度に若干戸惑っているようにも見える。まあ、これから先長いんだし小野田もあたしもへつらうタイプじゃないしねー。

「別に、あいつは俺のものってだけ」
「へえ、専属護衛ってやつー?」
「なるほど、君の護衛ということはそれなりの手練れとみた。とても落ち着きがあって可愛らしいうえに強いだなんて最高だな」

 うわぁ、小野田もいい性格してるわー。喧嘩とかやめてよねー、巻き込まれるのとかまじで勘弁なんだけど。

「おい、死にたくなきゃ発言には気をつけろ」
「ははっ、そう怒るなよ」
「君ら逆に相性いいかもねー」
「「んなわけ」」

 とか言いながら2人同時にスマホを取り出していじり始めた……って、スマホ持ってんじゃん。うわぁ、そういうこと? まじか。あたしらに俺のものに手ぇ出すなよって警告するためにあの子をこの場から追い出したってことでしょ? 引くわー、めっちゃ拗らせてるわー。

「凌久さま、すみません。わたしの記憶違いでければ先ほどスマートフォンを構っていらっしゃったかと……」

 戻ってきて視界に入ったであろう南雲がスマホを手に持っている姿。

「あぁ、悪い悪い。ケツポケに入ってたわ~」
「そうなんですね、それはよかったです」

 無駄に動かされても顔色一つ変えず穏やかな表情(かお)……なんか大変そ、色々と。


 てなかんじの出会いだったあたしら。やっぱこう苦楽を共にすると少なからず友情的なものが芽生えたりして、気づけばあたしの親友と呼べるまでになった楓花。時々壁のようなものを感じる時もあるけど、まあ色々あるよねーって感じで深く考えもしないし、別にいいでしょーってなノリで済ませている。でもまあ、いつかはこの壁のようなものが取っ払えれば嬉しいんだけどね?