── 事態は急転した

 岐阜県警と被害が愛知まで及んでいたことから愛知県警がタッグを組み、秘密裏に捜査を行っていたんだとかで、上の圧力なんぞには屈伸ぞ! というアツい連中が学校に乗り込んできた。んでその連中にS学の生徒だとバレたうえに幻影隊だということもバレれ、その場で軽く事情聴取に応じるはめに。んで、ヘビスモババアにもチクられガミガミ説教を食らい、「殺すぞガキ共がぁ! すぐ迎え寄越すからさっさと帰ってこい! こんのクソアホんだらぁ!」で今に至る。

 ── S学関係者が到着するまであと小1時間

 俺達は正門で雑談をしながら迎えとやらを待っていた。気づけば辺りは薄暗く、騒動もあったせいか校舎には誰一人として残っていない……はずだが楓花が振り向き校舎のほうを見ている。

「どうした」
「いえ」

 楓花は敵感知、要は敵意を感知する能力……弱点は敵意がなければ意味をなさないってことだ。でもまあ、楓花の敵感知はどうやら覚醒したようで戦闘中、敵の動きを先読みできるようになったらしい……普通に馬鹿強ぇよな。強ぇけどさ、俺には分かるんだよなぁ、敵意殺意っつうもんがなくてもよ。第六感が優れてるんでね。

「ああそういや忘れもんしたわ。取りに行ってくるからここで待ってろ」
「忘れ物ですか? ならわたしが取って来ます」
「いやいい、ここで瑛斗達と待ってろ」
「ならわたしもご一緒にっ」
「だぁから待ってろって、すぐ戻ってくるし。ステイ、おけ?」
「承知いたしました。何かあればご連絡を、すぐ向かいます」
「なんもねぇよ、じゃあな」

 楓花達に背を向け、薄暗い校舎に向かう。
 一瞬感じた気配、そしてすぐに消えた。楓花はそれを気取ったんだろう、まあなんとなくで。俺以外まともに気づいてねぇつうことは俺に向けられた敵意または殺意か? お家柄的に慣れてるけどよ、こういうのは。だが如何せん寝不足で疲れてんだよこっちはよ。さっさと終わらせてぇが、辺りを探ってみてもいねえんだよな。
 なんだぁ、気のせいだったか? 俺も相当疲れてんだな、やべぇわ。ここ1週間ほぼ能力発動しっぱなしだったしな、そりゃさすがにキツいだろって。

「戻るか」

 能力(結界)を解除して戻ろうとした瞬間、俺の頬を何かが掠めていった……ちっ、反応が遅れちまった。血がつーっと頬を伝うのを感じる。

「あらやだ♡綺麗な顔に傷をつけちゃったわ~」
「下手くそ~」
「あ? なんだテメェら」
「ふふ♡きみを拐いに来たの♡」
「そ~ゆうこと」

 女2人で来るとは随分と舐められたもんだな。

「へえ、で? 俺に勝てる算段ついてんの?」
「ええ、もちろん♡」
「よゆ~」
「笑わせんなよ。来世にでも期待しとけ、一瞬で終わらせてやっから」
「おっと、待って~? 何も分かってないんだな君は。うちらが君に武力で勝てるなんて微塵も思っていないよ~?」
「うふふ♡」

 ちっ、しくった。

「ああ、なるほどな。小賢しい真似しかやがって、あいつらに手ぇ出したら殺すぞ」
「こわ~い♡」
「君が大人しくうちらについて来ればあの子達には何もしないよ」
「で、何が目的なんだよ」
「さあ? 知らない。私達は雇われただけだから♡」
「その能力、解除してくれる?」
「あ?」
「主導権はこちら側にあるんだよ♡?」
「うちらの言うこと聞きなよ」

 あぁめんどくせぇ、きしょいし。一瞬で仕留めるか、殺ろうとしてんなら殺られる覚悟くらいあるよな?

「あ、ちなみに私達の身体に異常があった場合あちら側を囲んでる仲間に合図が送られるようになってるの♡」
「下手な真似はしないように。殺したくはないでしょ? 大切な仲間。しかもその中にお気に入りの番犬ちゃんがいるから死なせるわけにはいかないね?」

 ちっ、ああクソ。相手が何人いてどのレベルの連中なんだ? こいつら大蛇の端くれか? 下手に動くのはマズい……か。気配を感じ取れなかったことを考えるとそこそこな連中かもしれねえ。もしくは気配を消すのに長けた能力を持っている奴が仲間にいるのか……まあどっちでもいい。

「ヒーローってほんっと弱いわね♡」
「あ?」
「守るものが多いほど弱くなるんだよ」
「ははっ、クソヴィランがよく吐き捨てるセリフだな。んなもん弱者の戯れ言にすぎん」
「何を言っているの♡?」
「だって君、弱くなってるじゃない。君ひとりならうちらなんかに負けるはずがないのに、人質捕られて身動きが取れなくなってるじゃん」
「あぁやめやめ、テメェらみたいな低能と話すのって疲れんだよなぁ、埒が明かん。さっさと大元んとこに連れて行けよ」

 全員まとめて潰してやっからよ。