許されざる婚約と学園の秘密

第二章 揺れる心、囁かれる噂

歓迎パーティーの翌日から、美鈴の周囲はざわめきに包まれていた。

「白川さんって、一条くんの婚約者なんでしょ?」
「でも昨日は朝倉くんとすごく親しそうに踊ってたわよね」
「二人の御曹司に想われるなんて……まるで物語みたい」

ひそひそと交わされる声が、美鈴の耳に痛く刺さる。
机に向かいながらも胸がざわつき、顔を上げられなかった。

――わたし、何か悪いことをしてしまったのかしら。

昨日の舞踏会を思い出すと、胸が熱くなる。
悠真と踊ったときの優しい眼差し。
そして、蓮に強く手を取られた瞬間に感じた胸のざわめき。
二人の視線は、確かに自分だけを見ていた。

「美鈴、大丈夫?」

隣から声をかけてきたのは悠真だった。
彼は心配そうに覗き込み、笑みを添えて続ける。

「噂なんて気にしなくていい。俺がちゃんと守るから」

その言葉に、美鈴の頬は赤く染まる。
だが、その直後。

「……授業中だ。無駄口は慎め」

低く冷たい声が背後から落ちた。
蓮が鋭い眼差しでこちらを見ていた。
その瞳は、ただの注意というより――悠真と美鈴が近づくことを許さぬ警告のように感じられた。

「ご、ごめんなさい……」

美鈴は慌てて頭を下げたが、胸の奥はますます乱れていく。

冷たい許婚と、優しい幼馴染。
学園に広がる噂は、美鈴の心をますます追い詰めていった。
けれど同時に、その噂は――三人の運命を大きく動かす引き金となろうとしていた。