冷たい許婚と、優しい幼馴染。
同じ教室で、三人の物語が静かに動き出したのだった。
数日後。
学園の大広間では、新入生を歓迎するパーティーが盛大に催されていた。
煌めくシャンデリア、流れる音楽、色とりどりのドレスやタキシード。そこは社交界を思わせる華やかな空間だった。
美鈴は淡いピンク色のドレスに身を包み、壁際で静かに立っていた。
注がれる視線に頬が熱くなる。だが、人目に慣れない彼女は微笑むだけで、誰とも積極的に会話できずにいた。
「やっぱり、君は注目の的だな」
不意に差し出された手。振り向けば悠真が立っていた。
ネイビーのタキシードを着こなした彼は、どこか大人びた笑みを浮かべている。
「僕と踊ってくれる?」
「……え? でも……」
「断らないでよ。小さい頃は、よく手をつないで走り回ってたじゃないか」
懐かしい記憶を持ち出され、美鈴の心は一気に揺れた。
彼に導かれるまま、舞踏の輪に加わる。
音楽に合わせてステップを踏むと、不思議と足取りは軽く、胸が温かくなる。
「美鈴は変わらないね。優しくて、可愛くて……」
「悠真くん……」
頬が熱を帯び、視線を落とす。
その瞬間――
「……随分と楽しそうだな」
低く冷たい声が響いた。
振り返れば、蓮がこちらを見つめていた。
黒のタキシードを纏い、冷徹な気配を放つ彼は、周囲の女子たちを息を呑ませるほどの存在感を放っている。
「美鈴、次は俺の番だ」
有無を言わせぬ調子で差し出された手。
美鈴は一瞬迷ったが、抗うことができず、その手を取った。
悠真の温もりとは対照的に、蓮の手は冷たい。だが、その握力は強く、まるで彼女を離すまいとするかのようだった。
ダンスを続ける二人を見つめる悠真の瞳に、悔しさと切なさが宿る。
美鈴は気づいていた。
二人の御曹司の視線が、自分だけに向けられていることに。
そして、それが今後の学園生活を大きく揺るがす始まりであることにも――。

