新入生で賑わう教室。
ざわめきと笑い声が響くなか、美鈴は静かに自分の席についた。窓際の二列目。春風がやわらかく頬を撫で、心を少し落ち着けてくれる。
「白川さん、だよね? よろしくね」
「わあ……ほんとに綺麗」
同じクラスの女子たちが、興味津々に声をかけてくる。
社長令嬢という肩書きだけでなく、可憐な容姿も相まって、初日から注目の的だ。
美鈴は恥ずかしそうに微笑みながら、丁寧に応じた。
そこへ――
「……一条くんも同じクラスなのか!」
明るい声が響き、皆の視線が一斉にそちらへ向かう。
教室の入口に立っていたのは悠真。
その爽やかな笑顔は教室の空気を一瞬で華やかに変えるほどだった。
「美鈴、良かった! 俺たち同じクラスだよ」
ぱっと笑顔を向けてくる悠真に、美鈴の胸が温かくなる。
再会の喜びを隠せず、小さく頷いた。
だがその隣に立つ蓮は、まるで氷のような沈黙を纏っていた。
「……座るぞ」
短く告げ、窓際の後方席に腰を下ろす。その冷たい横顔に、女子たちは思わずため息を洩らす。
悠真はそんな雰囲気を気にも留めず、美鈴の机の前に立ち、懐かしそうに微笑んだ。
「ねえ、覚えてる? 小さい頃、よく一緒に遊んだよね。俺、美鈴が泣くと必ず駆けつけて――」
「悠真くん……」
頬が赤く染まる。忘れかけていた幼い日の記憶が胸に蘇る。
その時。
後ろから刺すような視線を感じ、美鈴は思わず振り返った。
蓮が、無言で彼女と悠真を見ていた。
冷たいはずの瞳に、ほんの一瞬――消しきれない炎のような光が宿っていた。
「……授業が始まる。席につけ」
低く、教室全体を震わせる声。
悠真は苦笑しながら肩をすくめ、美鈴の机から離れていった。
だが美鈴の胸は、まだざわめきの余韻に囚われていた。

