佳奈美が目の前で消えたのに悲しんでいる暇もなかった。
看護師が体の向きを変えてこちらを振り向いたのだ。
「元の世界じゃもうすぐ出口だったはずだ。行け!」

ホウキを握り直した貴也が叫ぶ。
「今度は貴也も一緒に」
「わかってる。すぐに追いつくから大丈夫だから」
安心するように優しく言われて私は渚ちゃんを見つめた。

せめてこの子だけでも脱出させてあげなきゃいけない。
渚ちゃんはたった一人で長い時間ここにいたんだ。
どれだけ怖い思いをしてきたか、想像もつかない。

「行こう渚ちゃん」
声をかけると小さく頷き返してくる。
ふたりで同時に足を進めて通路を進むと、それは右に折れ曲がっていた。