恐怖病院

言いたくないのに、なにかに言わされているような感覚がして口が勝手に動き、声帯が震えた。
噂通り唱え終えたあと、沈黙が流れた。

どこからか人の悲鳴が聞こえてくるけれど、トイレの中はとても静かだ。
生ぬるい風が漂ってくるばかり。
みんながそれぞれの顔を確認し、そしてなんとなく安堵の空気が流れていく。
「なぁんだ、やっぱりなにも起きな――」

佳奈美の言葉が途中で止まった。
鏡の中から幾本もの青白い手が伸びてきていた。
それは大人のものもあり、子供のものもある。
手がうごめいて私たちを捉えようとしているのがわかった。

「ヒッ」
悲鳴を上げそうになったのは誰だったかわからない。