貴也の言葉にまた噂について忘れてしまっていたことに気がついた。
お化け屋敷を楽しむだけのために入ったんじゃなかった。
「ついに鏡の世界に入れるの!?」

佳奈美がさっきとは打って変わって楽しげな声で質問している。
本当に不思議の国のアリスのような体験ができると思っているのかもしれない。
今の私には噂なんてどうでもよかった。

早くここから脱出して普通のアトラクションを楽しみたい。
好きな人と距離が縮まるというのは本当かもしれないけれど、それ所でもなくなっていた。

「噂が本当ならね」
貴也は佳奈美へ向けてそう答えて歩き出したのだった。