あとは出てくるだけでここに戻ってくることができるはずだ。
自分たちがそうだったように。

「お姉ちゃんは噂を忘れちゃった? ここは1人見つかれば1人行方不明になる場所なんだよ。私がこっちに戻ってきたってことは、お兄ちゃんは戻ってこられないってことなんだよ」

説明しながら渚ちゃんの目に涙が滲んでいく。
最後の方はそれが頬を流れていた。
「だから私は出られないって言ったのに!」

そういう意味があったのかと愕然とする。
大きな鏡に手を這わせてみても、反転した世界に行くことはできない。

「そんなのただの噂でしょ。貴也、貴也戻ってきて!」
叫びながら鏡を叩くけれど写っているのは自分と渚ちゃんの姿だけ。