屋上の鍵を閉めて職員室に向かうと、坂井先生が「偉いな、ふたりとも」と笑いながら立っていた。
 先生に繰り返し謝罪をしながら頭を下げて挨拶をし、私たちは昇降口に向かって歩き出す。

 すると彼は私の手を引き、踊り場の影で立ち止まった。
 自分の手首に付けた赤いゴムを、私のポケットへ滑り込ませたのだ。

「僕の弱点の証、預けとく」
「どういうこと?」
「今度、教える」

 顔をゆっくりと近づけるけれど、唇は触れない。
 顔にかかる彼の吐息が熱くて、胸が締め付けられた。


 帰り道、並んで歩く距離はいつもより近かった。
 ポケットの中に手を入れると、彼の赤いゴムが手のひらに触れる。

 明日の朝、彼はきっと完璧な〝生徒会長〟の姿をしているのだろう。
 誰にでも優しい笑顔を向け、頼りがいがあって、信頼のある桝原くん。

 でも私だけ知っている。
 この夜の出来事。
 桝原くんの弱点、日頃見せない顔。

「……」

 信号が青になり、ふたりで一緒に駆け出す。

 夜道に響く足音が軽く跳ねる。
 寝静まった街に響く私たちだけの音は、きっと〝始まり〟を現しているのだと思った。





夜の校舎、ふたりだけの秘密  終