うちの生徒会長、桝原(ますはら)祐人(ゆうと)くんは——完璧だ。

 遅刻ゼロ、忘れ物ゼロ、笑顔は満点。
 朝は校門に立って1年生の名前まで覚えていて、日直のときは黒板の端まで綺麗に磨き、最後はチョークの粉ひとつすら残さない。
 その姿は、まるで〝生徒会長〟という役割そのものが身体の一部になっているみたいで隙がない。

 ——そんな彼を、気づけば私は好きになっていた。

 きっかけは1年の春。
 書類の束を抱えて廊下で立ち尽くしていた私の前に、彼は無言で現れ、なんのためらいもなく半分を手に持って歩き出した。
 自然で流れるような行動に、胸が熱くなったのだ。

「あ、ありがとう、桝原くん」
「どういたしまして」

 交わした会話はたったそれだけ。
 けれど、言葉よりも早く届く優しさを知ってしまった瞬間から、気づけば私は彼の姿を追いかけるようになった。

 それから2年になり、生徒会で一緒になったとき、よりいっそう彼を見てしまうようになった。
 会議で発言するときに一拍置く癖。
 会議の終わりに必ず「お疲れ様でした」と視線を落とす顔の角度。
 校内放送のスイッチを切ったあとの、小さく息を吐く音——そんな小さな仕草のひとつひとつが、胸の奥に「好き」をすこしずつ積み重ねていく。
 積もった気持ちは、息をするたびにかすかに鳴った。
 でも、この気持ちは誰にも言えない。
 彼にも悟られないよう、溢れそうになる感情を必死で押し殺して、今まで生きてきた。