指先の背伸びは恋心を秘めて

「え……、そんな! 先輩に、彼女!?」
と、女子は私を睨むような眼差しで見ている。



「ごめんね。だけど、彼女がいるから、もう……」



先輩の言葉に被るように、女子は慌てて、
「今日は! 今日は、もう帰ります! また改めて私の気持ちを聞いてもらいます!!」
と言って、立ち去って行った。



「……か、帰った……!」



先輩から安堵のため息が漏れる。



(……それはひどいんじゃないの)



女子はしつこいとはいえ、勇気を出して気持ちを伝えているのに。



(モテる男子って、なんだか罪だな)



「……もう、帰っていいですか」


肩に置かれた手を離しつつ、私は先輩に訊ねた。



谷原先輩は「あ、ごめん」と言って手を引っ込めたけれど、
「これからも頼んでいいかな? 偽カレカノの役目」
と、言い出した。



(はぁ?)



そんなこと、したくない。



「嫌です」



私は構わず歩き出す。