指先の背伸びは恋心を秘めて

「先輩、どうしてもダメですか? 私、なんだってします! 彼女にしてください」
と、女子は私がいるにも関わらず、谷原先輩に食い下がっている。



岸村(きしむら)さん、あの、何回も言うけど」



(谷原先輩、完全に困っている……)
と思いつつ、ゆっくりこの場から去ろうとしていたら。



ズンズンと足音が近づいてくる。



「?」



振り返ると、谷原先輩が私のそばまで来ていた。



「ごめん、助けて」と小声で囁かれ、返事をする間もなく、谷原先輩が私の肩をぐっと抱いて女子を見る。



「悪いけれど、彼女はもういるんだ。この子がオレの彼女だから」



(えっ!? えっと……)



困った。

彼女!?

これって、彼女のフリをしてってことだよね!?



「そ、そうなんです。私達、付き合っています……!」



声がひっくり返るかと思った。

こんなに堂々と嘘をついたことなんて、私の人生を振り返ってみても、今日が初めてだと思う。