しばらく黙っていた周くんが、
「玲奈ちゃん、上靴はどうしたの?」
と、尋ねてきた。



私の足元を見ている。

そういえば、私は職員室で借りたスリッパを履いていた。

今の今まで他のことに気を取られて考えていなかったけれど。



「えっと……、朝来たらどっかにいってて」

「まさか、嫌がらせ?」

「いや、そのぉ……」



今更、岸村さんのせいだとは言いづらくなって、黙ってしまう。



「本当にオレが巻き込んだから……。ごめんね、迷惑かけて」



迷惑。

そんなんじゃないのに。



(周くんの中で、私ってもうすでに関係のない人になりつつあるのかな?)



ーーーいいじゃん。

だってどうせ、実らない恋なんだよ?

このまま、いっそ何もなかったことにすればいい。

周くんは、「完璧な王子様」。

私は「冷たい人」。

二人に接点が生まれたこと自体が、奇跡だったんだよ。



偽カレカノなんて、忘れればいい。

そんな奇跡、忘れちゃえ。