指先の背伸びは恋心を秘めて

(もし、本当の恋人同士なら)



この人のこの笑顔や優しさを、独り占め出来るのかな。

恋って人をわがままにするのかな。

初めての恋だから、まだよくわからないけれど、私は確実に欲張りになっている。



ベースコートは私が塗って乾くのを待ち、ベビーピンク色のマニキュアを周くんが持って、スタンバイしている。



さすがに初めてと言うだけあって、私の指先を持つ周くんの緊張感が伝わってくる。



「わぁ、マジむずっ」
と言いながら、周くんはマニキュアを塗ってくれる。



ちょっと持たれた指先に、神経が集中してしまう。

ドキドキが伝わりませんようにと、ひたすら願った。



「あはっ、なんか失敗しまくりだ」
と、周くんが笑った。



指先のマニキュアは、お世辞にも上手とは言えなくて、ガタガタしている。



「ごめんね、取る?」
と、周くん。



私は首を振って、
「これが良いです」
と、言った。



これが良い。

ガタガタで見栄えの悪いマニキュアは、周くんが塗ってくれた。

それだけで、どんなにキレイなネイルよりも素敵で貴重に思えた。