「お隣に越してきた江目ラルドです。よろしくお願いします」
目の前にいるのは美しい顔面を持っている学年一のモテていた高校時代の同級生だった。
結構仲良くしていた初恋の人だ。
忘れもしない思い出が走馬灯のようによみがえる。
とはいっても今死の淵にいるわけではないから、表現としてはちょっと違うのかもしれないけど。
桜吹雪の下で出会った入学式のラルド。
女子生徒に囲まれていたラルド。
夏の課外を受けた後に、一緒にアイスを食べた時間。
いつも彼はまぶしい存在だった。
「安久阿真凛です。よろしくお願いします」
お隣さんとの初対面に、緊張して一礼する。
「もしかして高校で一緒だった安久阿真凛だろ。俺、ラルドだよ」
そんなこと言われなくてもわかっている。
一目でわかった。良く知った顔だ。整った顔立ちにきめ細やかな肌質。女子に人気ナンバーワンだったエメラルド。
学校一のモテ男。男子にも女子にも好かれる人だった。
名前のごとく彼の周囲には人が集まるオーラがあって、容姿端麗な男子だった。
忘れたくてもずっと忘れられなかった人。
ずっと心の奥底に大切にしまっていた記憶の中の人が目の前にいることが信じられないでいる。
「お互いに宝石系な名前だったから結構いじられたよな。懐かしいな」
相変わらず誰にでも親し気に話す陽キャな性格。
誰もが好印象を感じる穏やかな物腰に優し気な声質。
笑顔が変わらない私の初恋の人。
誰とでも仲良く距離を置かない性格は勘違いする女子も多く、多くの女子が告白して散々に散るのを見た。
自分が散ることは確定していたので、想いを告げることもなくそのまま卒業した。
当時は結構話せる仲だったと思うけど、それは彼の距離感のない屈託のない笑顔のせいで勘違いしているだけなのかもしれない。
彼は誰にでも優しい。
現在は社会人一年目となった今でも彼は変わらない容姿を維持していた。
むしろ、大人っぽさが増して少し魅惑的になったようにも思う。
「お隣さんって運命じゃん。俺らの名前は宝石つながりだしさ。やっぱり運命だ」
こういうセリフを簡単に吐く。その気もないくせに。
私は知っている。こういう優し気な言葉をかけて女子を勘違いさせてしまう魔物だということを。
大学時代に一度も連絡をよこさないくせに運命とか笑っちゃうようなセリフを吐く。
「ラルドは社会人やってるの?」
「普通に社会人やってるけど、真凛はどうなの?」
「一応OLやってるよ」
こういう社会適合者はどんな会社に入ってもうまくやれる。そんなことはわかっていることだ。
私はプライドが高いから好きと思っても一切そんな素振りを見せたことはない。
きっと恋愛感情を持たれてるなんて思われていないだろう。
あれから何人かの男性と付き合ってみたけど、ラルド以上に一緒にいて楽しいとかときめく男性はいなかった。
まずこんなにいい顔立ちの男性はいない。
頭の回転も速いし、相手を気遣える男もそうそういない。
故に今は独り身で相手はいない。
こんなにレベルの高い男性に出会ったせいで、他の男性を好きになれないのかもしれない。
もしかして、ラルドが元凶なのかもしれない。
ラルドは偏差値の高い大学に行って大手に就職したと思われる。
「ラルドのことだし、大手の会社に就職したんでしょ?」
「実は、公認会計士の資格を取って会計事務所で働いてる」
「あの、難関国家資格と言われる公認会計士?」
昔から、見た目はチャラいのに努力家で先を見据えた人だと思っていたけど、まさかの公認会計士。
「らしくないって良く言われるけど、こう見えて大学在学中に取得済み」
「むしろラルドらしいなって思えるけどね」
「さすがは真凛ちゃん。俺のことわかってるぅ」
ノリは高校生の時のままだ。この明るさは彼の中での作っているものなのかな。
チャラいノリは彼をカモフラージュさせるためのものなのだろうか。
本当は淡白で自分のために努力を惜しまない人だと思う。
でも、ただの頑張り屋とか努力家に見えないようにチャラいように振舞っているのかなと思う。
「運命とか言ってるけど、なんで私に連絡くれなかったの? 待ってたのにな」
この程度のことを言える関係ではあったと思う。
どうせラルドは好きだとか意識する人じゃない。
「実は、スマホ壊れた時に連絡先が全部ふっとんじゃって、復元できなくてさ。連絡くれた人とはつながったんだけど。真凛全然連絡くれないし」
だって、勇気がない。
私がラルドに連絡する用事もないし、モテるだろうし、彼女がいるかもしれないと思ったら連絡できない。
「SNSで私のことを探して連絡すればいいじゃん」
「俺、国家資格の勉強とバイトで余裕なかったからな。連絡取りたかったんだけど、スマホを壊した俺が悪かった」
ラルドは人間関係の構築がうまいから、どこでもうまくやれる。
友達もすぐできるし、過去の人間関係に執着する人じゃない。
彼のことはわかっているつもりだけど、嫌いだから連絡しないとかじゃなくてよかった。
一人で安堵する。
「良かったら俺の部屋でコーヒーでも飲んでく? まだ引っ越しの荷物も片付いてないし、無理にとは言わないけど、久々の再会だし」
「せっかくだから、飲んでいこうかな」
「お隣さんだし、いつでも遊びに来てよ」
本当は独身男性の部屋に上がるなんてしないんだけど、ラルドは別だ。
万が一何かあっても彼ならいいかなと思うし、万が一何かは起こらないだろうというのが大方の見解だ。
彼は屈託のない微笑みを私に浴びせる。
また私が勝手に幸せになってしまうではないか。
いつでもいいということは、恋人はいないということだろうか。
再会してすぐに聞ける内容じゃないな。
目の前のラルドが最高の初恋の人だから緊張する。
もし、相手がいたらやっぱりショックだし。
でも、独身みたいだから、そこは安心している自分がいた。
まだこれから片づける荷物が段ボールの中にぎっしり入っている。
女性ものは置いていない様子だ。
「仕事と家の往復だし、寝るだけの部屋だから、あまり何も置かないと思うよ」
初恋の人にいれてもらうコーヒーは贅沢な時間だ。
人生でこの人以上に好きになれる自信はない。
もう二度と会えないかもしれないと思っていたけど、隣人になるなんて今でも信じられない。
しかも彼のコーヒーを飲む日が来るなんて。
下心のない彼は当たり前のように懐かしい日々の話を思い返しながら話し始める。
ミルクを入れたコーヒーは苦いのにまろやかで私と彼との距離のような気がする。
砂糖は入っていないので、甘くない関係というのが本音だ。
コーヒーを見つめながら問いかける。
「ラルドはみんなに優しいから、一人を好きとかないんでしょ?」
「フラれたら嫌だから、好きとかは言わないけど、恋愛感情は普通にあるよ。感情のない人間とか思ってた?」
「ラルドが特定の誰かを好きって聞いたことがないから」
「そんなこと、言ったことがないから、誰も知らないと思う」
隙の無い笑顔。ラルドの笑顔にみんなやられてしまうのは理解できる。
「今でも恋人は作らないの?」
「別に作らないとかじゃないんだけど、本気になれない人とは付き合えないんだよね」
「高校の時はラルドの一番近くにいたけど、ずっと離れてしまって、ラルドの感触も忘れてしまったな。高校時代だって私に恋の相談くらいしてよ」
「好きの基準は俺基準だから」
ラルドの口癖は俺基準。つまり、彼は自分が正しいと思うことをするし、やりたいと思うことをする。
人の目を気にするとか体裁を取り繕うとかはしない人だ。
たしかに良くしゃべっていたけど、好きという素振りも何もなかったと思う。
友達以上の何かはなかったと断言できる。
「彼氏とかいる?」
「彼氏はいないよ」
焦る私を横目に彼は冷静に話す。
「真凛は誰か好きな人いた? バレンタインにチョコは貰ったけど義理チョコって言ってたし」
「あれは、みんなのラルドだったから。女子の友情を壊したくないから。隣人になれるなんて、本当に運命みたいで信じられないのが本音」
「マジか。超うれしいな」
ラルドはにこりとする。
甘い香りは変わらない。ラルドの香りを思い出す。
ラルドは優しい目をして嬉しそうにした。
やわらかい髪質も変わらない。
少し栗毛色の地毛もかわらない。
瞳が少し茶色な色だというのも変わらない。
ラルドの全てが好きだ。
「毎日会えるね」
「でも、俺仕事で遅いし疲れてるから、なかなか会えないかもしれないけど」
「じゃあ、ベランダでおしゃべりしようよ。電話するみたいに今日あったことを話したりしてさ」
「ビールでも飲みながら星空を眺めながら少しだけ話すのも悪くないな」
高校の時、ラルドがいつものように女子に告白された場面に私もいたことがある。
その時、ラルドは私の瞳を見た。
知っている子だったので、私はその子の応援をしないと人間関係がダメになると思っていた。
「ゴメン。付き合えない」
ラルドの言葉に私は文句を言った。
ラルドは一瞬怪訝そうな顔をした。
でも、またいつもの笑顔で、あと腐れのない言葉をつなぐ。
「俺、誰とも付き合う気がないからさ。もっといい人見つかると思うし、貴重な高校時代をもっと自分を思ってくれる人を見つけてほしいと思うんだよね」
本当は付き合うことをOKしなかったことに心の底から安堵していたにもかかわらず、女子の応援をしないとクラスの中の立ち位置のことばかりが頭に入っていた。誰とも付き合う気がないというのは安心な言葉でもあり、自分も絶対にフラれるという言葉だとも理解していた。
「あの時、ラルドが高校時代告白されたときに、誰とも付き合う気がないって言ってたでしょ」
「もし、俺と誰かが付き合ったら女子の人間関係はまずい感じだったんじゃない?」
さすが空気の読める男だ。たしかに、大人気のラルドと友達ポジションということが一軍の証みたいになっていたし、恋愛とかそういうの苦手みたいなオーラを出していたから友達関係もうまくいっていた。
「あの時、付き合うのは得策じゃなかったって思ってるよ」
ピンポーンと宅配便が届いたようだ。
ラルドは玄関へ向かった。
「まだ届いていない荷物も結構あってさ。受け取りに時間かかるかも」
ふと横を見ると、段ボールの中で少し特別なものがあった。
封は開けているけど、中身を出した様子はない。
気になってしまい、中身を少しばかり見てみる。
すると、驚くことに私の写真が何枚も保存されていた。
外で写したものと思われる写真。
私が普通に歩いている姿。彼氏とデートしている姿。喫茶店でお茶をしている姿。
友達と撮った写真、友達が撮るよと言ってポーズをしている写真。
それは、彼と会えていなかった空白の時間の私だった。
ラルドが盗撮していた?
固まってしまう。
これはいわゆるストーカー行為というものなのでは。
でも、こんなことしなくても私たちは仲がいい。
もし、私が好きならば告白すればいいだけの話だ。
学年一モテるんだからOKするに決まっているのに。なぜ?
ラルド=ストーカー行為というのが全く結びつかなかった。
いわゆる陽キャでモテる男子。
そんな人が大学時代の私の写真を気づかれずに撮っていたのだろうか?
私の友達が撮ったであろう私がポーズをしている写真もある。
これは友達から入手したのだろうか?
女友達とラルドはつながっていたのだろうか?
イケメンストーカー。少しだけ怖い気がした。
ラルドの全てを知っているわけではない。彼の隠れた闇もあるかもしれない。
私と彼の空白期間に何があったのだろうか。
連絡してくれればちゃんとつながったのに。
これ、知られちゃまずいやつだよね。
知らなかったことにしないと。
すぐに箱を閉じた。
それに、私の隣に引っ越してきたなんて、ちょっとタイミング良すぎない?
もしかして偶然じゃないのだろうか?
さわやかな笑顔が少しだけ怖くなる。
もしも、彼がそういった類の男性ならば今後私はどうすればいいのか。
私の初恋は素直に受け入れてもいいのか不安となる。
運命が作られたものだったとしたら。
「ごめん荷物に手間取った。少し顔色悪い?」
「ちょっと疲れてるのかも。今日は帰るね」
こういったときに頼りになるのは、高校時代からの友人、エリーだ。
エリーはあのイケメンのことを結構リサーチしていた。
ということは、彼のことは客観的に知っていると思う。
部屋に戻って電話をする。
声は小声で。
『実は、ラルドが隣に引っ越してきてさ』
『マジ?』
『そうなんだけど問題があってね』
『何?』
さらなる小声に切り替える。
『ラルドの段ボールの中に私の隠し撮りした写真があって』
『隠し撮りって?』
『大学時代に知らないうちに取られていた写真とか、私の友達経由で入手したであろう写真とか』
『それってヤバい人ってこと?』
『隣に引っ越してきたってことも偶然なのか不明だよ』
『本人に聞いてみるとか』
『でも、箱の中を勝手に見たなんて言えないし』
『少しずつ探るしかないのかな。私が知っているラルドはそういう陰湿な行動はなかったと思う』
『私だってずっと仲良かったけど、変な素振りもないし友達も多いし』
謎が深まるばかりだ。
でも、彼のことを信じよう。
お隣といえど、朝から会うわけでもなく、出勤時間も方向も違う。
帰りも時間が違うから、会えることはほぼない。
翌日仕事が終わり、自宅に帰宅。
これはいつものことだ。
夕食を済ませ、入浴を済ませた後。
メッセージが鳴る。
【ベランダで飲まない?】
タイミングがいい。もしかして、監視してるとか? あの写真のことがよぎる。
ベランダに出ると、彼が顔を出す。
「今仕事から帰ってきたんだよね。ちょっと夕飯済ませて軽く飲もうかと思ってさ」
ビールの缶を開ける。
「じゃあ私もノンアルで」
ノンアルの飲み物を開けた。
「お酒は飲めないんだっけな」
高校時代の情報しか知らないはずなのに、なぜ、このことを。
好きだったはずなのに、ときめきよりも疑惑のほうが大きくなる。
「ラルドって、ずっと私に会えなくて寂しくなかった?」
「ちゃんと話しておきたいことがあるんだ」
少しばかり真剣な顔。それもまたイケメンと見とれる。
我に返る。もしかして、隠し撮りのことかな。
「実は、俺の友人が真凛のことが好きだって言っていて」
「誰?」
私そんなにもてないけど、ちょっと嬉しいかも。
「そんなに仲がいいわけじゃなかったんだけど、高校時代俺が真凛と仲がいいっていうことで情報提供を頼まれていて。付き合う気ないか?」
「そっちの告白ね」
すごくすごくショックだった。
好きだった人に恋愛を斡旋される落胆。
この悲しみはどうすればいいのか。
好きでもない女性だから、連絡をよこさなかったことくらいわかる。
一人時間が好きなのも、バイトと勉強で忙しいのもわかる。
運命とか思った矢先の失恋。
「実は、真凛の写真提供を頼まれて、友人経由で撮ってもらったものをその人に渡したんだ。隠し撮りも同じ大学の人に依頼していた。でも、そういうの悪いことだよな。本当にごめん」
「ラルドが撮ったんじゃなかったんだね」
「知ってたのか?」
「まぁ」
「悪いことなのに、俺、断れなくてごめんな」
「ラルドは八方美人だからね」
「この告白も頼まれたってこと?」
「真凛のことを好きだという男子が、彼氏がいないときに告白したいって言っていて。タイミングを計るために彼氏がいないか真凛の友達に探り入れたりしてた。ごめんな」
そういう意味で、探りを入れていたってことか。
単なるストーカーじゃなくてよかったけど。
結局私の気持ちは一方通行か。
「本当はこのことを連絡しようと思ったんだけど、彼氏がいたりして、タイミングが難しくて」
確かに適当に彼氏を作ったけど、好きになれなくて別れた人が何人かいたな。
基準がラルドとなると、普通の男子はかすんでしまう。
こんな奴と高校時代に仲良くなったばかりに。
「喫茶店でバイトしてただろ。実はその彼に情報をもらって何度か足を運んだんだけど、気づいてもらえず話しかけられなかったんだ」
「来てたなら言ってよ」
「担当が違ったみたいで裏方にいたんだよな」
私が気付かなかっただけなのか。
「その人って誰?」
スマホの画面を見せられる。
「知らない。誰これ?」
「クラスメイトの山田与志郎」
モブ中のモブだ。一軍とは無縁の静かそうなメガネ男子がなぜ、このラルドに頼み込んでるの?
知らないし、興味もないし。なんだか怖い。興ざめする。
「クラスにいただろ。ほら、掃除委員とか積極的にやっていて、勉強もできてさ」
私の眼中にラルドがいるから、眼中に入ってなかった。
たしかに、程よく勉強ができる真面目な男子はいたと思うけど。
勉強できる男子はラルドしか見えてなかったから。
「よく掃除委員なんて覚えてるよね」
「俺って、全体見るの得意なんだよね」
いつも笑顔を絶やさない。本音が見えないし、感情も起伏がない。だから、穏やかななのかな。
たしかに。だから、誰からも頼られて素敵な彼はみんなに好かれていた。
全体を見渡す力は空気を読む力だ。みんなのことをちゃんとみれている人。
ラルドは地味な女子にも優しいし、ブスな女子にも平等だった。
だから、外見とかそういうのは彼の中では関係ないってことなんだろう。
わかっていたのに私は外見ばかり磨いて、関係が壊れることを恐れて連絡をしなかった。
拒否されることが怖かったのかもしれない。
ここはちゃんと私の気持ちを伝えよう。
「全体見るのが得意なラルドは頼られるんだよね。山田君は覚えてなかったけど、直接好きだと言ってくれる人のほうがずっといいな。間接的な情報収集って辞めてほしいというか。ごめん、断っておいて」
「そうだよな。俺もわかっていながら、山田に協力してしまって。しかも、なかなか告白できないとかで、結局情報だけ集めてそれで終わってしまったんだ」
「その時の名残だったんだね。実は段ボールに私の写真が入っているのを見てしまって。山田君のために集めてた写真でしょ。お人よしというのが良く伝わるよね」
いつも無表情のラルドの顔が少しばかり変化したように思えた。
「見たの?」
「引っ越しの段ボールに入っていた写真、ちらっと見えたんだよね」
ラルドはビールを一気飲みして、少し顔が赤くなる。
「ごめん。処分するのも、申し訳なくて。持っているほうが申し訳ないんだけど。真凛の写真を捨てるっていうことはできなくて」
「気をつかいやすいラルドらしいね」
「写真は返すから。本当にゴメン」
「元々山田のせいだし。ラルドは悪くないよ。断れない性分なんでしょ」
「もしよければ、俺が持っていてもだめかな」
「別にいいけど」
「ごめん。嫌な思いさせたけど、これからも、ベランダで飲んだりしてくれるか?」
今日のラルドはちょっと違う。
いつもはもっとヤンチャなのに、少し丁寧で申し訳なさそうで、距離を感じる。
ラルドなら、飲もうよとか絶対来いよとかそういう風に言うと思う。
なぜ下出なんだろう。
「やっぱり人として、隠し撮りとか友人経路の入手はまずかったなって。本当は本人に許可貰って、堂々と告白すればいいだけなのにな」
「山田はやっぱり好きになれないよ。ちゃんと断っておいてよ」
「山田に加担した俺なんかとベランダで飲むの嫌だよな」
すごく寂しそうな顔をする。この人、罪悪感にさいなまれているのか。
元々はそういう人だもんな。
「ラルドは許すよ。その代わり、ラルドの写真を私にちょうだい」
「好きな人とかいたりしない? ベランダで話すのは大丈夫?」
ラルドは気をつかう性分だ。
「好きな人ねぇ。実らぬ恋で」
ラルドのことなんだけどね。
「そっかぁ。好きな人いたのは知らなかったな」
「高校の時からずっとだよ」
「そこは俺に相談しろよ」
「恥ずかしいから、秘密だよ」
「真凛は一途なんだな」
「かもしれないね」
二人で飲む時間は星がきれいで空気が澄んでいて、ここだけ時間の流れが止まっているような独特な空気が漂う。
沈黙が心地よくて、それでいて穏やかな空気で。
ラルドとの時間は久しぶりなのに落ち着く。
好きな人で緊張しているはずなのに、落ち着くな。
ラルドは友達として見てくれているのかな。
だから、ベランダで会いたいと思ってくれているのかな。
「俺、何度か真凛に連絡取ろうとしていたんだけど、山田が連絡取るなって言ってきてさ。実は、俺の妹の秘密を握っているって言われて。脅されてた。バレたら高校退学案件なことしていて。証拠の写真を持っていて。力づくで消そうとしたけど、いっぱいコピーあるし、ネットに流出させるって言われて」
「脅しじゃん? 山田ってヤバい人? この告白断ったらまずいのかな? でも、付き合ってもまずいかな」
「真凛の住んでるところ知ってたから、近くに引っ越して守れたらと思って。俺のせいで真凛に何かあったら申し訳ないから」
「じゃあ? あえて隣に住んだの?」
「近くのマンションを探していたんだけど、ちょうど隣に空きが出た時で、速攻申し込んだ。住所変えても山田はきっとすぐ特定すると思うよ」
「でも、山田ってストーカーなんでしょ。断ったら何するかわかんないよね」
「そこで、俺は山田の弱みをつかむために色々とITを駆使して、奴の弱みを探していたんだ。そうすれば、妹のことも消去してもらえるからな。それに、妹は高校を卒業したし、成人したから、今はもう退学とかそういうのは関係ない」
「妹の画像ってどういうのなの? まさか、裸の写真とかそういう類じゃないよね?」
「妹が高校時代夏祭りで飲酒していたことがあって、友達とチューハイ飲んでる写真を偶然山田に撮られたんだよな。結構顔もはっきり撮れていて。それをネタに山田は俺に近づいた。山田には真凛とは連絡を取るなと言われて、連絡をとれないようにされていたんだ」
なるほど、だからラルドは連絡を取らなかったのか。
「一応喫茶店で客を装って危険を促そうかとも思ったけど、うまくいかなくて」
「ラルドっていい奴だね。だから、あんな陰キャに脅されたのかもしれないね」
「妹はいい奴なんだよ。ただ、友達がヤンチャなタイプで飲まないといけないみたいな空気だったらしく、仕方がなく度数の低いチューハイを飲んだらしい。山田の奴、妹のことも調べていたらしく、俺を脅すようになってさ」
「でも、いいの? 盗聴されてたりしないの?」
「盗聴器の探知機で調べてあるから大丈夫。あと、ベランダは締め切ると盗聴できないんだよ。ここは高いから、下からは見えないし、向かいにはここが見えるビルがちょうどなかった。だから、ここに住んだ真凛はラッキーだったよ」
「山田って何してる人なの?」
「大学出て就活うまくいってなかったみたいで、俺の知り合いのIT企業を紹介してやったから、友達である社長に監視させてる。オフィス内ワークだから退勤時間を知らせてもらってる。残業多いから、自分の時間取れないだろ。結果的にストーカー活動は縮小せざるを得ないだろうし」
「もし、盗聴器があったら怖いから一応私の部屋も調べてもらってもいい?」
「俺も女子の部屋に入れてもらう理由もなくて、まだ調べてない。もし、良かったら今から調べるよ」
なんだか心強い。
一気に負の感情が押し寄せてきて私には理解することで精いっぱいだった。
ピンポーン
「上がるぞ」
「お願いします」
ラフな私服姿のラルドはやっぱりすごく素敵で、背も高くてかっこいいなと思う。
探知機を部屋中くまなく漁る。
音はない。
「ここ、引っ越してきて間もないだろ。そのころ、会社の研修とかあえて山田を忙しくさせていたから、山田も盗聴器仕掛けるまでは動けなかったんだと思う。真凛が以前の住んでいたアパートも理由がなければ親族以外の人間は管理人に言っても入ることはできないし、盗聴の線はないと思う」
「よかったぁ」
「お礼にコーヒー淹れるよ。実は結構豆に凝っていて、おいしいんだから」
「ありがとう。もし、怖いこととか困ったことがあったら何でも言ってほしい。高校からのよしみだろ」
「ラルドと私の間柄だもんね。連絡ないし、変だなって思っていたけど、そういう経緯があったなら納得」
そんな時に、下に置いておいた物につまづく。
私はおっちょこちょいで転ぶとかぶつけるとか結構室内でもある。
転んだ先に、ラルドの顔がある。
「大丈夫か?」
「ごめん」
ラルドの上に私が覆いかぶさっているような状態だ。
思わず赤面する。
「私足元に雑誌置いて片づけてなかったから。紙ごみの日が近いから出そうと思っていて」
言い訳するなら離れるほうが先なのに。
「今立ち上がるね」
すると、下になったラルドが私の手を引いた。
「もう少し、このままでいて」
今、幻聴だったのかな。
ラルドの聞きなれた心地いい声が耳元で予想もしないことを言ったような。
気のせいだよね。
ラルドの両手が私の体全体を抱きしめている。
これはお酒のせいなのだろうか。私はしらふだけど。
「ずっとこうやって話したかったし、ちゃんと連絡したかった。会いたかった」
ラルドは更に私を強く抱きしめた。
これは、どういうことだろうか。
「私もずっとラルドに連絡したかったけど勇気がなくて。人気があるし、友達も多い。仲が良かったと思っていたのは勘違いだったと思ったし」
「実際俺たち仲良かっただろ。山田に言われて尾行したこともあるけど、彼氏ができたと聞いたとき、やっぱり気になって俺の意志で尾行したことがあって。俺も山田と変わらない。ごめん」
そんなことがあったの?
「喫茶店でも偶然を装って再会したいという気持ちがあったけど、タイミングが合わなくて、会えなくて」
普通に見たら成人男女が床の上で抱き合っているシーンにしか見えない。
この状況は一体どうすれば。立ち上がるにもラルドがぎゅっと抱きしめていて動けない。
「コーヒー淹れるから」
こういえば、この状況は終わるのだろうか。
「コーヒーの前に」
ラルドの顔が近づく。
ビールの香りが唇が重なるときにほのかに感じる。
キス? これは女性ならば誰でもいいというキスなのか?
私だからキスをしたのかどっちなんだろうか?
更に彼は何度もキスをした。
それは、ずっと憧れていた人と重なるキス。
美しい行為で尊い時間だった。
これは現実なのかどうかもわからないくらい頭の中は何も考えられなくなっていた。
「コーヒーをいただこうかな。これ以上キスしたら俺、自制心崩壊するかもしれないから」
照れた様子のラルドは顔を真っ赤にして、謝った。
「ごめん。付き合ってもいないのに、どさくさに紛れてキスとかしちゃって」
「コーヒーの前に聞いておいていい?」
「ラルドは私のこと、どう思ってるの? 友達?」
「俺は、高校の時から真凛が好きだった。でも、告白しようと思っていたけど卒業して、その後山田から妹のことで脅されて、結局好きだとは言えなかった。やっぱり、こんな俺じゃだめだよな」
この人、すごく人気があって顔もいいのに自己肯定感低い、
「私はずっと高校の時からラルドが好きだった。他の人と付き合ったけど、ラルド以上に好きになれなくて別れたんだ。今日、更にラルドが好きになった。キスしたらもっと好きになった」
「じゃあもっとしようか? コーヒーの前に」
「ええ?」
ラルドは完全にからかうような目つきをする。
彼自身もう我慢ができないのか、歯止めがきかず、ものすごく溺愛してくれた。
ラルドに抱かれると安心する。
彼の息づかいも香りも声も全部が好きだ。
その後の山田の件だが。
結局ITに詳しいベンチャー企業の社長と友人だったラルドは組んだ。
ラルドは山田が世間的に知られてはまずい映像や盗撮行為を行っている映像を入手した。
妹の飲酒の写真も、私の写真も、ラルドとのやり取りも全部なかったことにするように念書を書かせたらしい。
もし、ストーカー行為を行った場合は、山田のまずい動画と写真をネットにばらまくと脅すと、もともと気の弱い男のため、従ったらしい。今もその会社で山田は働いている。なぜならば、社長がその動画を所持しているからだ。山田は社畜として働くことになったらしい。
今日もベランダで星を見ながら二人で会話する。
「コーヒー淹れようか。私の部屋に来る?」
部屋に入るとラルドは私を抱きしめてかわいがってくれる。
相思相愛、愛されるとはこういったことだろうかと幸せを体感する。
「コーヒーの前に、いいかな?」
ラルドは私の返事の前に唇を重ね深いキスをした。
目の前にいるのは美しい顔面を持っている学年一のモテていた高校時代の同級生だった。
結構仲良くしていた初恋の人だ。
忘れもしない思い出が走馬灯のようによみがえる。
とはいっても今死の淵にいるわけではないから、表現としてはちょっと違うのかもしれないけど。
桜吹雪の下で出会った入学式のラルド。
女子生徒に囲まれていたラルド。
夏の課外を受けた後に、一緒にアイスを食べた時間。
いつも彼はまぶしい存在だった。
「安久阿真凛です。よろしくお願いします」
お隣さんとの初対面に、緊張して一礼する。
「もしかして高校で一緒だった安久阿真凛だろ。俺、ラルドだよ」
そんなこと言われなくてもわかっている。
一目でわかった。良く知った顔だ。整った顔立ちにきめ細やかな肌質。女子に人気ナンバーワンだったエメラルド。
学校一のモテ男。男子にも女子にも好かれる人だった。
名前のごとく彼の周囲には人が集まるオーラがあって、容姿端麗な男子だった。
忘れたくてもずっと忘れられなかった人。
ずっと心の奥底に大切にしまっていた記憶の中の人が目の前にいることが信じられないでいる。
「お互いに宝石系な名前だったから結構いじられたよな。懐かしいな」
相変わらず誰にでも親し気に話す陽キャな性格。
誰もが好印象を感じる穏やかな物腰に優し気な声質。
笑顔が変わらない私の初恋の人。
誰とでも仲良く距離を置かない性格は勘違いする女子も多く、多くの女子が告白して散々に散るのを見た。
自分が散ることは確定していたので、想いを告げることもなくそのまま卒業した。
当時は結構話せる仲だったと思うけど、それは彼の距離感のない屈託のない笑顔のせいで勘違いしているだけなのかもしれない。
彼は誰にでも優しい。
現在は社会人一年目となった今でも彼は変わらない容姿を維持していた。
むしろ、大人っぽさが増して少し魅惑的になったようにも思う。
「お隣さんって運命じゃん。俺らの名前は宝石つながりだしさ。やっぱり運命だ」
こういうセリフを簡単に吐く。その気もないくせに。
私は知っている。こういう優し気な言葉をかけて女子を勘違いさせてしまう魔物だということを。
大学時代に一度も連絡をよこさないくせに運命とか笑っちゃうようなセリフを吐く。
「ラルドは社会人やってるの?」
「普通に社会人やってるけど、真凛はどうなの?」
「一応OLやってるよ」
こういう社会適合者はどんな会社に入ってもうまくやれる。そんなことはわかっていることだ。
私はプライドが高いから好きと思っても一切そんな素振りを見せたことはない。
きっと恋愛感情を持たれてるなんて思われていないだろう。
あれから何人かの男性と付き合ってみたけど、ラルド以上に一緒にいて楽しいとかときめく男性はいなかった。
まずこんなにいい顔立ちの男性はいない。
頭の回転も速いし、相手を気遣える男もそうそういない。
故に今は独り身で相手はいない。
こんなにレベルの高い男性に出会ったせいで、他の男性を好きになれないのかもしれない。
もしかして、ラルドが元凶なのかもしれない。
ラルドは偏差値の高い大学に行って大手に就職したと思われる。
「ラルドのことだし、大手の会社に就職したんでしょ?」
「実は、公認会計士の資格を取って会計事務所で働いてる」
「あの、難関国家資格と言われる公認会計士?」
昔から、見た目はチャラいのに努力家で先を見据えた人だと思っていたけど、まさかの公認会計士。
「らしくないって良く言われるけど、こう見えて大学在学中に取得済み」
「むしろラルドらしいなって思えるけどね」
「さすがは真凛ちゃん。俺のことわかってるぅ」
ノリは高校生の時のままだ。この明るさは彼の中での作っているものなのかな。
チャラいノリは彼をカモフラージュさせるためのものなのだろうか。
本当は淡白で自分のために努力を惜しまない人だと思う。
でも、ただの頑張り屋とか努力家に見えないようにチャラいように振舞っているのかなと思う。
「運命とか言ってるけど、なんで私に連絡くれなかったの? 待ってたのにな」
この程度のことを言える関係ではあったと思う。
どうせラルドは好きだとか意識する人じゃない。
「実は、スマホ壊れた時に連絡先が全部ふっとんじゃって、復元できなくてさ。連絡くれた人とはつながったんだけど。真凛全然連絡くれないし」
だって、勇気がない。
私がラルドに連絡する用事もないし、モテるだろうし、彼女がいるかもしれないと思ったら連絡できない。
「SNSで私のことを探して連絡すればいいじゃん」
「俺、国家資格の勉強とバイトで余裕なかったからな。連絡取りたかったんだけど、スマホを壊した俺が悪かった」
ラルドは人間関係の構築がうまいから、どこでもうまくやれる。
友達もすぐできるし、過去の人間関係に執着する人じゃない。
彼のことはわかっているつもりだけど、嫌いだから連絡しないとかじゃなくてよかった。
一人で安堵する。
「良かったら俺の部屋でコーヒーでも飲んでく? まだ引っ越しの荷物も片付いてないし、無理にとは言わないけど、久々の再会だし」
「せっかくだから、飲んでいこうかな」
「お隣さんだし、いつでも遊びに来てよ」
本当は独身男性の部屋に上がるなんてしないんだけど、ラルドは別だ。
万が一何かあっても彼ならいいかなと思うし、万が一何かは起こらないだろうというのが大方の見解だ。
彼は屈託のない微笑みを私に浴びせる。
また私が勝手に幸せになってしまうではないか。
いつでもいいということは、恋人はいないということだろうか。
再会してすぐに聞ける内容じゃないな。
目の前のラルドが最高の初恋の人だから緊張する。
もし、相手がいたらやっぱりショックだし。
でも、独身みたいだから、そこは安心している自分がいた。
まだこれから片づける荷物が段ボールの中にぎっしり入っている。
女性ものは置いていない様子だ。
「仕事と家の往復だし、寝るだけの部屋だから、あまり何も置かないと思うよ」
初恋の人にいれてもらうコーヒーは贅沢な時間だ。
人生でこの人以上に好きになれる自信はない。
もう二度と会えないかもしれないと思っていたけど、隣人になるなんて今でも信じられない。
しかも彼のコーヒーを飲む日が来るなんて。
下心のない彼は当たり前のように懐かしい日々の話を思い返しながら話し始める。
ミルクを入れたコーヒーは苦いのにまろやかで私と彼との距離のような気がする。
砂糖は入っていないので、甘くない関係というのが本音だ。
コーヒーを見つめながら問いかける。
「ラルドはみんなに優しいから、一人を好きとかないんでしょ?」
「フラれたら嫌だから、好きとかは言わないけど、恋愛感情は普通にあるよ。感情のない人間とか思ってた?」
「ラルドが特定の誰かを好きって聞いたことがないから」
「そんなこと、言ったことがないから、誰も知らないと思う」
隙の無い笑顔。ラルドの笑顔にみんなやられてしまうのは理解できる。
「今でも恋人は作らないの?」
「別に作らないとかじゃないんだけど、本気になれない人とは付き合えないんだよね」
「高校の時はラルドの一番近くにいたけど、ずっと離れてしまって、ラルドの感触も忘れてしまったな。高校時代だって私に恋の相談くらいしてよ」
「好きの基準は俺基準だから」
ラルドの口癖は俺基準。つまり、彼は自分が正しいと思うことをするし、やりたいと思うことをする。
人の目を気にするとか体裁を取り繕うとかはしない人だ。
たしかに良くしゃべっていたけど、好きという素振りも何もなかったと思う。
友達以上の何かはなかったと断言できる。
「彼氏とかいる?」
「彼氏はいないよ」
焦る私を横目に彼は冷静に話す。
「真凛は誰か好きな人いた? バレンタインにチョコは貰ったけど義理チョコって言ってたし」
「あれは、みんなのラルドだったから。女子の友情を壊したくないから。隣人になれるなんて、本当に運命みたいで信じられないのが本音」
「マジか。超うれしいな」
ラルドはにこりとする。
甘い香りは変わらない。ラルドの香りを思い出す。
ラルドは優しい目をして嬉しそうにした。
やわらかい髪質も変わらない。
少し栗毛色の地毛もかわらない。
瞳が少し茶色な色だというのも変わらない。
ラルドの全てが好きだ。
「毎日会えるね」
「でも、俺仕事で遅いし疲れてるから、なかなか会えないかもしれないけど」
「じゃあ、ベランダでおしゃべりしようよ。電話するみたいに今日あったことを話したりしてさ」
「ビールでも飲みながら星空を眺めながら少しだけ話すのも悪くないな」
高校の時、ラルドがいつものように女子に告白された場面に私もいたことがある。
その時、ラルドは私の瞳を見た。
知っている子だったので、私はその子の応援をしないと人間関係がダメになると思っていた。
「ゴメン。付き合えない」
ラルドの言葉に私は文句を言った。
ラルドは一瞬怪訝そうな顔をした。
でも、またいつもの笑顔で、あと腐れのない言葉をつなぐ。
「俺、誰とも付き合う気がないからさ。もっといい人見つかると思うし、貴重な高校時代をもっと自分を思ってくれる人を見つけてほしいと思うんだよね」
本当は付き合うことをOKしなかったことに心の底から安堵していたにもかかわらず、女子の応援をしないとクラスの中の立ち位置のことばかりが頭に入っていた。誰とも付き合う気がないというのは安心な言葉でもあり、自分も絶対にフラれるという言葉だとも理解していた。
「あの時、ラルドが高校時代告白されたときに、誰とも付き合う気がないって言ってたでしょ」
「もし、俺と誰かが付き合ったら女子の人間関係はまずい感じだったんじゃない?」
さすが空気の読める男だ。たしかに、大人気のラルドと友達ポジションということが一軍の証みたいになっていたし、恋愛とかそういうの苦手みたいなオーラを出していたから友達関係もうまくいっていた。
「あの時、付き合うのは得策じゃなかったって思ってるよ」
ピンポーンと宅配便が届いたようだ。
ラルドは玄関へ向かった。
「まだ届いていない荷物も結構あってさ。受け取りに時間かかるかも」
ふと横を見ると、段ボールの中で少し特別なものがあった。
封は開けているけど、中身を出した様子はない。
気になってしまい、中身を少しばかり見てみる。
すると、驚くことに私の写真が何枚も保存されていた。
外で写したものと思われる写真。
私が普通に歩いている姿。彼氏とデートしている姿。喫茶店でお茶をしている姿。
友達と撮った写真、友達が撮るよと言ってポーズをしている写真。
それは、彼と会えていなかった空白の時間の私だった。
ラルドが盗撮していた?
固まってしまう。
これはいわゆるストーカー行為というものなのでは。
でも、こんなことしなくても私たちは仲がいい。
もし、私が好きならば告白すればいいだけの話だ。
学年一モテるんだからOKするに決まっているのに。なぜ?
ラルド=ストーカー行為というのが全く結びつかなかった。
いわゆる陽キャでモテる男子。
そんな人が大学時代の私の写真を気づかれずに撮っていたのだろうか?
私の友達が撮ったであろう私がポーズをしている写真もある。
これは友達から入手したのだろうか?
女友達とラルドはつながっていたのだろうか?
イケメンストーカー。少しだけ怖い気がした。
ラルドの全てを知っているわけではない。彼の隠れた闇もあるかもしれない。
私と彼の空白期間に何があったのだろうか。
連絡してくれればちゃんとつながったのに。
これ、知られちゃまずいやつだよね。
知らなかったことにしないと。
すぐに箱を閉じた。
それに、私の隣に引っ越してきたなんて、ちょっとタイミング良すぎない?
もしかして偶然じゃないのだろうか?
さわやかな笑顔が少しだけ怖くなる。
もしも、彼がそういった類の男性ならば今後私はどうすればいいのか。
私の初恋は素直に受け入れてもいいのか不安となる。
運命が作られたものだったとしたら。
「ごめん荷物に手間取った。少し顔色悪い?」
「ちょっと疲れてるのかも。今日は帰るね」
こういったときに頼りになるのは、高校時代からの友人、エリーだ。
エリーはあのイケメンのことを結構リサーチしていた。
ということは、彼のことは客観的に知っていると思う。
部屋に戻って電話をする。
声は小声で。
『実は、ラルドが隣に引っ越してきてさ』
『マジ?』
『そうなんだけど問題があってね』
『何?』
さらなる小声に切り替える。
『ラルドの段ボールの中に私の隠し撮りした写真があって』
『隠し撮りって?』
『大学時代に知らないうちに取られていた写真とか、私の友達経由で入手したであろう写真とか』
『それってヤバい人ってこと?』
『隣に引っ越してきたってことも偶然なのか不明だよ』
『本人に聞いてみるとか』
『でも、箱の中を勝手に見たなんて言えないし』
『少しずつ探るしかないのかな。私が知っているラルドはそういう陰湿な行動はなかったと思う』
『私だってずっと仲良かったけど、変な素振りもないし友達も多いし』
謎が深まるばかりだ。
でも、彼のことを信じよう。
お隣といえど、朝から会うわけでもなく、出勤時間も方向も違う。
帰りも時間が違うから、会えることはほぼない。
翌日仕事が終わり、自宅に帰宅。
これはいつものことだ。
夕食を済ませ、入浴を済ませた後。
メッセージが鳴る。
【ベランダで飲まない?】
タイミングがいい。もしかして、監視してるとか? あの写真のことがよぎる。
ベランダに出ると、彼が顔を出す。
「今仕事から帰ってきたんだよね。ちょっと夕飯済ませて軽く飲もうかと思ってさ」
ビールの缶を開ける。
「じゃあ私もノンアルで」
ノンアルの飲み物を開けた。
「お酒は飲めないんだっけな」
高校時代の情報しか知らないはずなのに、なぜ、このことを。
好きだったはずなのに、ときめきよりも疑惑のほうが大きくなる。
「ラルドって、ずっと私に会えなくて寂しくなかった?」
「ちゃんと話しておきたいことがあるんだ」
少しばかり真剣な顔。それもまたイケメンと見とれる。
我に返る。もしかして、隠し撮りのことかな。
「実は、俺の友人が真凛のことが好きだって言っていて」
「誰?」
私そんなにもてないけど、ちょっと嬉しいかも。
「そんなに仲がいいわけじゃなかったんだけど、高校時代俺が真凛と仲がいいっていうことで情報提供を頼まれていて。付き合う気ないか?」
「そっちの告白ね」
すごくすごくショックだった。
好きだった人に恋愛を斡旋される落胆。
この悲しみはどうすればいいのか。
好きでもない女性だから、連絡をよこさなかったことくらいわかる。
一人時間が好きなのも、バイトと勉強で忙しいのもわかる。
運命とか思った矢先の失恋。
「実は、真凛の写真提供を頼まれて、友人経由で撮ってもらったものをその人に渡したんだ。隠し撮りも同じ大学の人に依頼していた。でも、そういうの悪いことだよな。本当にごめん」
「ラルドが撮ったんじゃなかったんだね」
「知ってたのか?」
「まぁ」
「悪いことなのに、俺、断れなくてごめんな」
「ラルドは八方美人だからね」
「この告白も頼まれたってこと?」
「真凛のことを好きだという男子が、彼氏がいないときに告白したいって言っていて。タイミングを計るために彼氏がいないか真凛の友達に探り入れたりしてた。ごめんな」
そういう意味で、探りを入れていたってことか。
単なるストーカーじゃなくてよかったけど。
結局私の気持ちは一方通行か。
「本当はこのことを連絡しようと思ったんだけど、彼氏がいたりして、タイミングが難しくて」
確かに適当に彼氏を作ったけど、好きになれなくて別れた人が何人かいたな。
基準がラルドとなると、普通の男子はかすんでしまう。
こんな奴と高校時代に仲良くなったばかりに。
「喫茶店でバイトしてただろ。実はその彼に情報をもらって何度か足を運んだんだけど、気づいてもらえず話しかけられなかったんだ」
「来てたなら言ってよ」
「担当が違ったみたいで裏方にいたんだよな」
私が気付かなかっただけなのか。
「その人って誰?」
スマホの画面を見せられる。
「知らない。誰これ?」
「クラスメイトの山田与志郎」
モブ中のモブだ。一軍とは無縁の静かそうなメガネ男子がなぜ、このラルドに頼み込んでるの?
知らないし、興味もないし。なんだか怖い。興ざめする。
「クラスにいただろ。ほら、掃除委員とか積極的にやっていて、勉強もできてさ」
私の眼中にラルドがいるから、眼中に入ってなかった。
たしかに、程よく勉強ができる真面目な男子はいたと思うけど。
勉強できる男子はラルドしか見えてなかったから。
「よく掃除委員なんて覚えてるよね」
「俺って、全体見るの得意なんだよね」
いつも笑顔を絶やさない。本音が見えないし、感情も起伏がない。だから、穏やかななのかな。
たしかに。だから、誰からも頼られて素敵な彼はみんなに好かれていた。
全体を見渡す力は空気を読む力だ。みんなのことをちゃんとみれている人。
ラルドは地味な女子にも優しいし、ブスな女子にも平等だった。
だから、外見とかそういうのは彼の中では関係ないってことなんだろう。
わかっていたのに私は外見ばかり磨いて、関係が壊れることを恐れて連絡をしなかった。
拒否されることが怖かったのかもしれない。
ここはちゃんと私の気持ちを伝えよう。
「全体見るのが得意なラルドは頼られるんだよね。山田君は覚えてなかったけど、直接好きだと言ってくれる人のほうがずっといいな。間接的な情報収集って辞めてほしいというか。ごめん、断っておいて」
「そうだよな。俺もわかっていながら、山田に協力してしまって。しかも、なかなか告白できないとかで、結局情報だけ集めてそれで終わってしまったんだ」
「その時の名残だったんだね。実は段ボールに私の写真が入っているのを見てしまって。山田君のために集めてた写真でしょ。お人よしというのが良く伝わるよね」
いつも無表情のラルドの顔が少しばかり変化したように思えた。
「見たの?」
「引っ越しの段ボールに入っていた写真、ちらっと見えたんだよね」
ラルドはビールを一気飲みして、少し顔が赤くなる。
「ごめん。処分するのも、申し訳なくて。持っているほうが申し訳ないんだけど。真凛の写真を捨てるっていうことはできなくて」
「気をつかいやすいラルドらしいね」
「写真は返すから。本当にゴメン」
「元々山田のせいだし。ラルドは悪くないよ。断れない性分なんでしょ」
「もしよければ、俺が持っていてもだめかな」
「別にいいけど」
「ごめん。嫌な思いさせたけど、これからも、ベランダで飲んだりしてくれるか?」
今日のラルドはちょっと違う。
いつもはもっとヤンチャなのに、少し丁寧で申し訳なさそうで、距離を感じる。
ラルドなら、飲もうよとか絶対来いよとかそういう風に言うと思う。
なぜ下出なんだろう。
「やっぱり人として、隠し撮りとか友人経路の入手はまずかったなって。本当は本人に許可貰って、堂々と告白すればいいだけなのにな」
「山田はやっぱり好きになれないよ。ちゃんと断っておいてよ」
「山田に加担した俺なんかとベランダで飲むの嫌だよな」
すごく寂しそうな顔をする。この人、罪悪感にさいなまれているのか。
元々はそういう人だもんな。
「ラルドは許すよ。その代わり、ラルドの写真を私にちょうだい」
「好きな人とかいたりしない? ベランダで話すのは大丈夫?」
ラルドは気をつかう性分だ。
「好きな人ねぇ。実らぬ恋で」
ラルドのことなんだけどね。
「そっかぁ。好きな人いたのは知らなかったな」
「高校の時からずっとだよ」
「そこは俺に相談しろよ」
「恥ずかしいから、秘密だよ」
「真凛は一途なんだな」
「かもしれないね」
二人で飲む時間は星がきれいで空気が澄んでいて、ここだけ時間の流れが止まっているような独特な空気が漂う。
沈黙が心地よくて、それでいて穏やかな空気で。
ラルドとの時間は久しぶりなのに落ち着く。
好きな人で緊張しているはずなのに、落ち着くな。
ラルドは友達として見てくれているのかな。
だから、ベランダで会いたいと思ってくれているのかな。
「俺、何度か真凛に連絡取ろうとしていたんだけど、山田が連絡取るなって言ってきてさ。実は、俺の妹の秘密を握っているって言われて。脅されてた。バレたら高校退学案件なことしていて。証拠の写真を持っていて。力づくで消そうとしたけど、いっぱいコピーあるし、ネットに流出させるって言われて」
「脅しじゃん? 山田ってヤバい人? この告白断ったらまずいのかな? でも、付き合ってもまずいかな」
「真凛の住んでるところ知ってたから、近くに引っ越して守れたらと思って。俺のせいで真凛に何かあったら申し訳ないから」
「じゃあ? あえて隣に住んだの?」
「近くのマンションを探していたんだけど、ちょうど隣に空きが出た時で、速攻申し込んだ。住所変えても山田はきっとすぐ特定すると思うよ」
「でも、山田ってストーカーなんでしょ。断ったら何するかわかんないよね」
「そこで、俺は山田の弱みをつかむために色々とITを駆使して、奴の弱みを探していたんだ。そうすれば、妹のことも消去してもらえるからな。それに、妹は高校を卒業したし、成人したから、今はもう退学とかそういうのは関係ない」
「妹の画像ってどういうのなの? まさか、裸の写真とかそういう類じゃないよね?」
「妹が高校時代夏祭りで飲酒していたことがあって、友達とチューハイ飲んでる写真を偶然山田に撮られたんだよな。結構顔もはっきり撮れていて。それをネタに山田は俺に近づいた。山田には真凛とは連絡を取るなと言われて、連絡をとれないようにされていたんだ」
なるほど、だからラルドは連絡を取らなかったのか。
「一応喫茶店で客を装って危険を促そうかとも思ったけど、うまくいかなくて」
「ラルドっていい奴だね。だから、あんな陰キャに脅されたのかもしれないね」
「妹はいい奴なんだよ。ただ、友達がヤンチャなタイプで飲まないといけないみたいな空気だったらしく、仕方がなく度数の低いチューハイを飲んだらしい。山田の奴、妹のことも調べていたらしく、俺を脅すようになってさ」
「でも、いいの? 盗聴されてたりしないの?」
「盗聴器の探知機で調べてあるから大丈夫。あと、ベランダは締め切ると盗聴できないんだよ。ここは高いから、下からは見えないし、向かいにはここが見えるビルがちょうどなかった。だから、ここに住んだ真凛はラッキーだったよ」
「山田って何してる人なの?」
「大学出て就活うまくいってなかったみたいで、俺の知り合いのIT企業を紹介してやったから、友達である社長に監視させてる。オフィス内ワークだから退勤時間を知らせてもらってる。残業多いから、自分の時間取れないだろ。結果的にストーカー活動は縮小せざるを得ないだろうし」
「もし、盗聴器があったら怖いから一応私の部屋も調べてもらってもいい?」
「俺も女子の部屋に入れてもらう理由もなくて、まだ調べてない。もし、良かったら今から調べるよ」
なんだか心強い。
一気に負の感情が押し寄せてきて私には理解することで精いっぱいだった。
ピンポーン
「上がるぞ」
「お願いします」
ラフな私服姿のラルドはやっぱりすごく素敵で、背も高くてかっこいいなと思う。
探知機を部屋中くまなく漁る。
音はない。
「ここ、引っ越してきて間もないだろ。そのころ、会社の研修とかあえて山田を忙しくさせていたから、山田も盗聴器仕掛けるまでは動けなかったんだと思う。真凛が以前の住んでいたアパートも理由がなければ親族以外の人間は管理人に言っても入ることはできないし、盗聴の線はないと思う」
「よかったぁ」
「お礼にコーヒー淹れるよ。実は結構豆に凝っていて、おいしいんだから」
「ありがとう。もし、怖いこととか困ったことがあったら何でも言ってほしい。高校からのよしみだろ」
「ラルドと私の間柄だもんね。連絡ないし、変だなって思っていたけど、そういう経緯があったなら納得」
そんな時に、下に置いておいた物につまづく。
私はおっちょこちょいで転ぶとかぶつけるとか結構室内でもある。
転んだ先に、ラルドの顔がある。
「大丈夫か?」
「ごめん」
ラルドの上に私が覆いかぶさっているような状態だ。
思わず赤面する。
「私足元に雑誌置いて片づけてなかったから。紙ごみの日が近いから出そうと思っていて」
言い訳するなら離れるほうが先なのに。
「今立ち上がるね」
すると、下になったラルドが私の手を引いた。
「もう少し、このままでいて」
今、幻聴だったのかな。
ラルドの聞きなれた心地いい声が耳元で予想もしないことを言ったような。
気のせいだよね。
ラルドの両手が私の体全体を抱きしめている。
これはお酒のせいなのだろうか。私はしらふだけど。
「ずっとこうやって話したかったし、ちゃんと連絡したかった。会いたかった」
ラルドは更に私を強く抱きしめた。
これは、どういうことだろうか。
「私もずっとラルドに連絡したかったけど勇気がなくて。人気があるし、友達も多い。仲が良かったと思っていたのは勘違いだったと思ったし」
「実際俺たち仲良かっただろ。山田に言われて尾行したこともあるけど、彼氏ができたと聞いたとき、やっぱり気になって俺の意志で尾行したことがあって。俺も山田と変わらない。ごめん」
そんなことがあったの?
「喫茶店でも偶然を装って再会したいという気持ちがあったけど、タイミングが合わなくて、会えなくて」
普通に見たら成人男女が床の上で抱き合っているシーンにしか見えない。
この状況は一体どうすれば。立ち上がるにもラルドがぎゅっと抱きしめていて動けない。
「コーヒー淹れるから」
こういえば、この状況は終わるのだろうか。
「コーヒーの前に」
ラルドの顔が近づく。
ビールの香りが唇が重なるときにほのかに感じる。
キス? これは女性ならば誰でもいいというキスなのか?
私だからキスをしたのかどっちなんだろうか?
更に彼は何度もキスをした。
それは、ずっと憧れていた人と重なるキス。
美しい行為で尊い時間だった。
これは現実なのかどうかもわからないくらい頭の中は何も考えられなくなっていた。
「コーヒーをいただこうかな。これ以上キスしたら俺、自制心崩壊するかもしれないから」
照れた様子のラルドは顔を真っ赤にして、謝った。
「ごめん。付き合ってもいないのに、どさくさに紛れてキスとかしちゃって」
「コーヒーの前に聞いておいていい?」
「ラルドは私のこと、どう思ってるの? 友達?」
「俺は、高校の時から真凛が好きだった。でも、告白しようと思っていたけど卒業して、その後山田から妹のことで脅されて、結局好きだとは言えなかった。やっぱり、こんな俺じゃだめだよな」
この人、すごく人気があって顔もいいのに自己肯定感低い、
「私はずっと高校の時からラルドが好きだった。他の人と付き合ったけど、ラルド以上に好きになれなくて別れたんだ。今日、更にラルドが好きになった。キスしたらもっと好きになった」
「じゃあもっとしようか? コーヒーの前に」
「ええ?」
ラルドは完全にからかうような目つきをする。
彼自身もう我慢ができないのか、歯止めがきかず、ものすごく溺愛してくれた。
ラルドに抱かれると安心する。
彼の息づかいも香りも声も全部が好きだ。
その後の山田の件だが。
結局ITに詳しいベンチャー企業の社長と友人だったラルドは組んだ。
ラルドは山田が世間的に知られてはまずい映像や盗撮行為を行っている映像を入手した。
妹の飲酒の写真も、私の写真も、ラルドとのやり取りも全部なかったことにするように念書を書かせたらしい。
もし、ストーカー行為を行った場合は、山田のまずい動画と写真をネットにばらまくと脅すと、もともと気の弱い男のため、従ったらしい。今もその会社で山田は働いている。なぜならば、社長がその動画を所持しているからだ。山田は社畜として働くことになったらしい。
今日もベランダで星を見ながら二人で会話する。
「コーヒー淹れようか。私の部屋に来る?」
部屋に入るとラルドは私を抱きしめてかわいがってくれる。
相思相愛、愛されるとはこういったことだろうかと幸せを体感する。
「コーヒーの前に、いいかな?」
ラルドは私の返事の前に唇を重ね深いキスをした。



