(僕が消えたら、クラルが悲しむ……)

クラルの悲しむ姿を想像しただけで、ルーチェの胸が締め付けれる感覚を覚えた。消えてはいけない。ルーチェは自身の中にある知識を思い返す。何かこの状況を打破できる解決策はないかと、思い付く魔法を放っていく。

「無駄なことを」

フードを被った人物は嗤っていた。その声を無視してルーチェは足掻く。その時だった。

「ルーチェ」

不意に聞こえた言葉にルーチェの体がピタリと止まる。

「クラル?」

辺りを見回す。クラルはここにはいない。幻聴かとルーチェが肩を落としそうになったその時、ルーチェの手に温かな感触がした。手の方を見ると、見慣れた手がルーチェの手を掴んでいる。それと同時に声がした。

「ダメだよ。ルーチェ、戻ってきて」

クラルの声である。ずっと聞きたかった声に、ルーチェの目の前がぼやけた。

「クラル……」

ルーチェの体が温もりに包まれる。フードを被った人物が焦った様子で何かを言っているものの、その声は聞こえない。