あやかしと魔王の側近

「ここはあの世とこの世の狭間だ。ここに放り込まれた人間はどうなると思う?」

ドクンとルーチェの心臓が音を立てる。刹那、ルーチェは自身の手を見て驚いた。手が透け始めている。

「生きた人間は魂を吸い取られ、天国へも地獄へも行けない。お前は私の邪魔をする。だから消えてもらう」

フードを被った人物は淡々と言い放つ。ルーチェは「嫌だ!!」と大声を上げ、魔法を放つ。光線がフードを被った人物に当たる。しかし、その人物は何もなかったようにそこに立っていた。

「もう消えかけている者の魔法など、この私に効くわけがないだろう」

嘲笑うかのようにその人物は口角を上げる。ルーチェの背中を冷や汗が伝う。頭の中には、異世界転生を果たしてから出会った人の顔が浮かんだ。

(父様、母様、リル、八咫烏、アーサー、ティム……)

『ルーチェ』

ルーチェの名を、大切な宝物のように呼ぶクラルが頭に浮かんだ。頰を涙が伝う。ルーチェが最後に見たクラルは笑顔ではなかった。