「なんじゃこりゃぁぁぁ!」
とんでもない大惨事に、わたしはひとり大声をあげた。
たしかに、おかしいとは思っていた。
いつものような熱烈なお迎えもなく、ひっそりと静まりかえった我が家。
玄関のカギを開け、リビングの扉を開け、目に飛び込んできた光景はぶっ飛びすぎていて、誰も見ていないのにおおげさにのけぞってしまった。
――いや、違った。
リビングの真ん中から、まん丸いつぶらな瞳で、様子をうかがうように、じっとこちらを見ている者がいる。
怒っていることを示すために語気を強めてその名前を呼べば、ピンと立った耳がへなへなと垂れて、いかにも申し訳なさそうにしていた。
犯人はクゥちゃんに違いなかった。
桜田家の中で一番嘘が下手な子、それがクゥちゃんなのだ。
呆然としているわたし、未唯と、反省しきりのクゥちゃんが無言で対峙していると、ガチャリとドアが開く音がして後ろを振り返る。
ひとつ年上の兄、巳晴が玄関から入ってくるところだった。
ランドセルを背負ったまま立ち尽くしているわたしを見て、巳晴もまたちょっと驚きつつ、「なにしてんの」と聞いてきた。
見た方が早いので室内を指さして、手っ取り早く答える。
「密室事件が発生した」
「は?」
意味が通じず、巳晴がいぶかしげにリビングの入り口から顔をのぞかせると、わたしとは逆に「あー」と脱力したような声を上げた。
これはクゥちゃんの仕業に違いないと事態を理解するやいなや、わたしの肩をポンと叩いた。
「我が家のルールで解決だね」
まるで人ごとみたいにそういうと巳晴はそのまま回れ右をして、二階の自室へと向かった。
やっぱり。そうなのだ。解決方法はそれしかない。
桜田家のルールはいくつかあるけど、一番新しく付け加えられたルールはこれだ。
愛犬の粗相は、一番最初に見つけた人が始末すること。
クゥちゃんは2ヶ月前に我が家へやってきた。
顔のわりには目と耳が大きいチワワという犬種で、色素が抜けたようなごく薄い茶色の毛並みだった。
お父さんの知り合いの知り合いのブリーダーが引退するとかで、犬の引き取り手を探していた。
とにかく今すぐにでもということで、破格の値段になっているとお父さんはいった。
詳しくは聞いてないが、本当のところはお母さんが反対するほど安くはなかったらしい。
いやそれより、ちゃんと飼えるかどうかが問題だ。
絶対に大丈夫だからと、お父さんとわたしと、二人がかりでお母さんを説得した。
それで新たなルールの登場だ。
巳晴も巻き込み、家族みんなでクゥちゃんを見守ると約束した。
やってきた当初、クゥちゃんは生後3ヶ月くらいだったが、ようやくトイレも覚えてきた。
決められた場所にできるといっても、それをずっとそのまま放置しておくわけにもいかないから、気づいた人が片付ける。
そして、抜け毛が気になったり、遊び散らかしたときも同じように気がついた人が片付ける。
きょうはわたしが第一発見者だ。
それにしたって――。
きょうの散らかしっぷりはすごい。床に落ちてるボックスティッシュは空っぽで、中身がちりぢりに散乱している。
「これはコツを覚えちゃったな……」
飛び出ているティッシュを口でくわえて、一枚一枚抜いていったのだろうが、抜いても抜いても出てくるものだから、やめられない止まらないで、さぞかし楽しかったことだろう。
「……あ、そうだ」
未唯はこの惨状をスマホで撮ると、SNSにアップした。
やらかしだってなんだって、みんな動物好きだ。
クラスの友達からまったく知らない人まで「いいね!」っていってくれるんだから、つい撮っちゃう。
すぐさま返ってくる反応に満足し、「やるっきゃない!」と気合いを入れ、くずくずになった使えないティッシュをかき集めた。
とんでもない大惨事に、わたしはひとり大声をあげた。
たしかに、おかしいとは思っていた。
いつものような熱烈なお迎えもなく、ひっそりと静まりかえった我が家。
玄関のカギを開け、リビングの扉を開け、目に飛び込んできた光景はぶっ飛びすぎていて、誰も見ていないのにおおげさにのけぞってしまった。
――いや、違った。
リビングの真ん中から、まん丸いつぶらな瞳で、様子をうかがうように、じっとこちらを見ている者がいる。
怒っていることを示すために語気を強めてその名前を呼べば、ピンと立った耳がへなへなと垂れて、いかにも申し訳なさそうにしていた。
犯人はクゥちゃんに違いなかった。
桜田家の中で一番嘘が下手な子、それがクゥちゃんなのだ。
呆然としているわたし、未唯と、反省しきりのクゥちゃんが無言で対峙していると、ガチャリとドアが開く音がして後ろを振り返る。
ひとつ年上の兄、巳晴が玄関から入ってくるところだった。
ランドセルを背負ったまま立ち尽くしているわたしを見て、巳晴もまたちょっと驚きつつ、「なにしてんの」と聞いてきた。
見た方が早いので室内を指さして、手っ取り早く答える。
「密室事件が発生した」
「は?」
意味が通じず、巳晴がいぶかしげにリビングの入り口から顔をのぞかせると、わたしとは逆に「あー」と脱力したような声を上げた。
これはクゥちゃんの仕業に違いないと事態を理解するやいなや、わたしの肩をポンと叩いた。
「我が家のルールで解決だね」
まるで人ごとみたいにそういうと巳晴はそのまま回れ右をして、二階の自室へと向かった。
やっぱり。そうなのだ。解決方法はそれしかない。
桜田家のルールはいくつかあるけど、一番新しく付け加えられたルールはこれだ。
愛犬の粗相は、一番最初に見つけた人が始末すること。
クゥちゃんは2ヶ月前に我が家へやってきた。
顔のわりには目と耳が大きいチワワという犬種で、色素が抜けたようなごく薄い茶色の毛並みだった。
お父さんの知り合いの知り合いのブリーダーが引退するとかで、犬の引き取り手を探していた。
とにかく今すぐにでもということで、破格の値段になっているとお父さんはいった。
詳しくは聞いてないが、本当のところはお母さんが反対するほど安くはなかったらしい。
いやそれより、ちゃんと飼えるかどうかが問題だ。
絶対に大丈夫だからと、お父さんとわたしと、二人がかりでお母さんを説得した。
それで新たなルールの登場だ。
巳晴も巻き込み、家族みんなでクゥちゃんを見守ると約束した。
やってきた当初、クゥちゃんは生後3ヶ月くらいだったが、ようやくトイレも覚えてきた。
決められた場所にできるといっても、それをずっとそのまま放置しておくわけにもいかないから、気づいた人が片付ける。
そして、抜け毛が気になったり、遊び散らかしたときも同じように気がついた人が片付ける。
きょうはわたしが第一発見者だ。
それにしたって――。
きょうの散らかしっぷりはすごい。床に落ちてるボックスティッシュは空っぽで、中身がちりぢりに散乱している。
「これはコツを覚えちゃったな……」
飛び出ているティッシュを口でくわえて、一枚一枚抜いていったのだろうが、抜いても抜いても出てくるものだから、やめられない止まらないで、さぞかし楽しかったことだろう。
「……あ、そうだ」
未唯はこの惨状をスマホで撮ると、SNSにアップした。
やらかしだってなんだって、みんな動物好きだ。
クラスの友達からまったく知らない人まで「いいね!」っていってくれるんだから、つい撮っちゃう。
すぐさま返ってくる反応に満足し、「やるっきゃない!」と気合いを入れ、くずくずになった使えないティッシュをかき集めた。



