あなたの家族になりたい

 そういえば、澪と電車で出かけるのは初めてだ。

「……あのさ、うちに来てもうちょいで一年くらいなんだけど、なんか困ったこととかねえの?」

「困ったことですか?」

 前から気になってたことを聞いてみた。でも澪はきょとんとしてから首をひねる。

「とくには、ないです」

「前に、『なんかあったら俺の部屋に来て』って言ったの、覚えてる?」

「はい。引っ越したときですよね」

「……一度も、来なかったからさ」

 かっこ悪いことを言ってる自覚はあるけど、でも聞かずにはいられなかった。
 俺はちっともこいつを大事にできてない。
 たぶん俺はめちゃくちゃ情けない顔をしてるけど、澪は不思議そうな顔のままだ。

「困ったことがなかったので……」

「んなことねえだろ、いきなり他人の家に来てさ」

「でも、なかったんです。由紀さんたちはよくしてくれましたし、理不尽なことも言われませんし、叱られることはあっても怒られることはありませんし」

 ……元の環境が悪すぎたから、か。

「それに、私今は夜に瑞希さんの部屋に行ってるじゃないですか。……ちょっと回数が多くて、申し訳なくはあるのですが」

「それはいいけどさ。いや、多いってわかってたのかよ」

 最近、澪は週の半分以上は俺の部屋で寝ている。つまり、それだけヤってるわけで。別にいいけどさ……かわいいし……。

「へ、減らしたほうがいいですか……?」

「あー、いや……寝室、一緒にするか……」

「えっ、いいんですか!?」

 澪がパッと笑顔になった。そんなに嬉しいか……?

「お前の部屋の隣、今は物置だけど、昔はじいさんばあさんの部屋だったんだよ。たしか八畳くらいあるし、大したもん置いてないから、言えば使わせてくれると思うけど」

「帰ったら、すぐお願いします! ……こうやって、困ったなって思う前に、瑞希さんが欲しいものをくれるから、私は由紀さんのお家で困ったことがないんですよ」

 ニコニコしながら言われて、俺は何て言えばいいのかちっともわからない。
 まあ、いいか。
 きれいになったかどうかはさておき、前よりずっと、かわいいとは思う。