あなたの家族になりたい

 翌日、今度こそ二人でデザートビュッフェに向かう。

 海辺のホテルの上層階にあるそこは、どこもかしこも輝いて見えて、たぶん一人だったら絶対に来なかっただろう。

 瑞希さんとお腹いっぱいになるまで食べて、腹ごなしに近くの浜辺を散歩する。


「なんか、珍しい格好してんね」


 風にはためくスカートを押さえていたら瑞希さんに覗き込まれた。


「お義母さんが、せっかくだからと選んでくださったんです。先週、瑞希さんが誘ってくれたあとに」

「……そっか」


 またしばらく黙って歩いていると、瑞希さんがぽつりと呟いた。


「来年のバレンタインも、チョコの家がいい」

「は、はい。わかりました。用意します」


 来年も、一緒にいてくれるんだ。

 そして、チョコも受け取ってくれる。


「そんで、またなんか美味いもの食いに行こう。お前が作る飯ほどじゃないかもしれないけど」

「……そんなことは……。えっと、楽しみにしています」

「その前にさ、行きたいところがあるから付き合って」

「はい、ぜひ」


 瑞希さんのスマホを覗き込むと、お洒落なカフェが表示されていた。

 メニューの写真は、どれもとても美味しそう。


「他にもさ、いろいろ行こう。うちに、お前が出かけて嫌がるやつなんかいないから」

「……はい。瑞希さん、ありがとうございます」


 昨日、母が言ったことを気にしてくれていたんだ。

 私自身は、言われすぎてもう何を言われたかも覚えていない。

 瑞希さんがかばってくれたことのほうが、ずっと大事だ。

 瑞希さんに手を引かれて歩く。

 黙ってても居心地が悪くない。

 砂浜は歩きにくく、足は砂だらけになるけれど、大きな手で引っ張られているから、安心して歩いていける。


「瑞希さん」

「んー?」

「夜の海ってきれいですね」

「……そだね。お前のほうがきれいって言ったほうがいい?」

「いっ、言わなくていいです……」

「また来よう。じいさんばあさんになっても、一緒に来よう」

「……はい」


 瑞希さんが立ち止まって、振り向いた。

 見上げると、少しだけキスして、また歩き出す。

 私の顔はたぶんゆるゆるだから、瑞希さんが先に歩いてくれていて良かった。

 家に帰ってお風呂から上がったあと、瑞希さんの部屋のドアをノックする。

 パジャマ姿の瑞希さんが出てきて、私を見て目を細くする。


「どした?」


 やけに嬉しそうで、たぶん私が言いたいことなんて全部わかってるのだろう。


「……えっと……、その……キス、してください」

「はいよ」


 肩に手が乗る。

 一瞬だけキスされる。

 そんなのじゃ、物足りないって分かってるくせに。

 何て言えばいいだろう。

 瑞希さんは何も言わない。

 散々悩んだ末に、なんとか顔を上げる。


「……明日の朝、おはようのキスもしてほしいです……ベッドの中で」

「なんだよ、それ」


 瑞希さんは笑って、腕を広げた。


「おいで」

「……はい」


 抱きつくと優しく抱き締められた。

 ここが、私の帰る場所だ。