あなたの家族になりたい

 引っ越してみてわかったのは、瑞希さんの話し方が怖いのは怒っているからではなく、それが普通だということ。

 言い方がキツイと、よくお義母さんに叱られていて、不貞腐れる顔は子どもみたいであんまり怖くなかった。

 目つきがキツいのも、よく見たらお義母さんと顔がそっくりだし、ただそういう顔なだけだった。

 乱暴な言い方をするたびに、気まずそうに言い直すのが少しかわいいと思ってしまう。

 私が謝ってばかりいるのも、卑下してばかりいるのも、瑞希さんは嫌がる。

 肯定的な言い方、喜ぶこと、感謝すること、そういうのを喜んでくれる。

 由紀さんたちも私の仕事を褒めてくれて、喜んでくれて、応援してくれる。

 そしたら、私は頑張りたくなる。

 もっと良くしたいと思える。


 ――「お前は気が利くよな」


 瑞希さんとは、同じ家に住んでいても、会うのはごはんのときくらい。

 それだけなのに、頑張ったことに気づいてくれるあの人は、もう怖い人なんかじゃない。

 ごはんを作ると、なんでもおいしいと言ってくれる。

 ケーキやアイス、そんなちょっとしたものを選ばせてくれる。

 ……実家ではあり得なかったことばかりで、私はずっとここにいたい。


 そのためには、どうしたらいいのだろう。


 そもそも私がここの家にいるのは瑞希さんと婚約という扱いになってるからだ。

 ……建前だけじゃなく、本当にそうなりたいと思ったのが、いつからなのかはわからない。

 ペンギンを買ってくれたとき、ケーキを選ばせてくれたとき。

 アイスを買ってきてくれたときかもしれないし、クリスマスプレゼントをもらったときかもしれない。

 お汁粉を喜んでくれたときとか、バレンタインのチョコの家を熱心に作っているのを見たときかもしれない。

 瑞希さんは、当たり前のように私を一人の人間として扱う。

 消えそうな私を、ちゃんと数に入れてくれた。


 でも、たまらなくなったのは母から庇ってくれたときだ。